感想(物語編) 動き出した時計

赤松健さんの作品を読むのはネギま!が初めてです。それ以前の作品の情報は、ほぼ、id:izmino様の赤松健論から得たものが全てです。もしかすると他の作品を読むと全く違う感想が生まれるのかなとも思っていますが、ここでは作家についてではなく作品について書いてみようと思うので、あまり他の作品の情報を入れずに素の状態で書いていきます。



ネギま!はそもそもラブコメなのか否か?僕的には厳密にはラブコメではないけれど、巧妙にそう見えるように設定されていると見ています。愛や恋が無くても特定のある男女がカップルになって終わるというラブコメの基本線をたどる物語になると感じています。


昨日の設定編には書きませんでしたが、この作品の設定は本当に巧みです。
主人公は女性との恋愛感情を理解していない男の子、かたや色恋沙汰に敏感なお年頃のクラスメイトたち31人。よく考えるとクラスメイトの皆様にちょうどいいお年頃の男性は、作中ではほとんど描かれていないですよね。ネギ君に興味が集中するのが不自然に思えません。
そして、なんといっても仮契約制度です。キスですよキス!!(笑)恋愛感情が芽生えて無くてもキスするんですよ(笑)そこに深い配慮がある。キスをして仮契約をすると仮パートナーになる。そのパートナーとは信頼関係を育まなければならないのです。信頼関係と恋愛感情。この二つを置き換えてみると見事にラブコメなんです。しかも、複数の少女との間に関係を持っても倫理的に問題がない。むしろ強大な敵に立ち向かうためには必要。この設定はうまいです。
しかも、あくまでも仮契約なんです。本契約だとラブコメ本線の物語的な興味は契約した時点で薄れてしまうんですが、仮契約だからその中の誰といったい本契約を結ぶのか=カップルになるのかという興味は継続したままなんです。すごいシステムだよ、これ。


実際問題としてネギま!のラブコメ的な物語が最後に決着するのかどうかは微妙だと思っています。しかし、決着するにしても決着しないにしても、ラブコメとしてこの作品を読んでいる人にとっては悪くない読後感が約束されているのではないかと感じています。



  • 狂言回しとしての小動物



可愛いけどスケベな小動物カモ君のことです。ネギといえばカモ。これ常識。
彼(と言っていいのか)が学園に来るまではネギ君は事実上ひとりぼっち見たいなものだったんですよね。本心を吐露できる相手がいなかった。その後小太郎君が登場するわけですが、それまではネギ君の唯一の友達みたいなもので・・・
まぁ友達というにはちょっと腹黒いかな(笑)



  • 示唆される「敵」の存在



バトル漫画的な要素も色濃く存在します。ラブコメとしての決着はつかなくても最後の強大な敵との戦いが終わればこの物語を終わることができる、そんな予感があります。(が違うと思っています)バトル要素っていうのは登場人物の成長を描くのに都合がいいです。力関係が変わっていくのが目に見えてわかるから。ネギ君とそのパートナー達が成長し最後の敵に立ち向かう。その絵を思い浮かべながら読み進んでいる読者も多いのではないでしょうか。



  • 圧倒的な力



エヴァちゃんをはじめ、主人公とはあきらかに力の差がある登場人物が用意されています。スポーツやバトル系の物語ではよく見かける設定です。ハリーポッターもそうですね。だいたいの場合敵方と見方の両方にそういう人物がいます。なぜ彼らではなくまだ成長途上の少年が戦わなければならないのかと・・・そういう設定なんだからしょうがない(笑)
目指すところを指し示してくれる人がいないと成長を描くのは難しいんでしょうね。自分で物語を書けないからそのあたりは推測するしかないんですけどね。




次で最後の項目です。長いです。



  • ナギの呪縛



この作品を支えているのはいったいだれか。主人公はネギ君です。これは間違いない。ヒロインは明日菜。それもたぶんあってる。しかし物語を支えているのはだれか。そこがちょいと難しかった。


14巻まで魔法先生ネギま!を読んでの率直な感想はこれです。


物語を支えているのはナギである。


別の漫画と勘違いしているわけではありません(笑)あっちもナギが支えているけどこっちもナギが支えているってだけです。


もちろんナギと無関係と思われるプロットもたくさんあります。木乃香と刹那の関係とかのどかの恋の行方とか・・・そもそも最後の敵とナギとが関係あるのかもまだわからない。でも、魔法先生ネギま!を物語としてとらえた場合、「ナギの呪縛」は避けて通れないのではないかと思えてならないのですよ。


ちょっと寄り道します。
僕は最近「物語の読後感や切なさを支配しているのは『時の流れ』である」と思いつきました。その、時の流れという側面からネギま!を読んでみるととっても面白い事に気づくんですよね。


ネギ君が赴任してきたことによって、実は魔法世界と関わりがあるのに、成人するまではなどの理由でそのことに気づいていなかった少女達が覚醒しているんです。魔法世界的に考えると「時計が動き出した」んですね。今までの世界とは違う世界を知ったわけです。
しかし、まだ時計が止まったままの少女もいます。エヴァちゃんとさよです。この二人はそれぞれの理由で成長をしません。この二人にとっては麻帆良学園中等部が世界の全てでそこから出ることはかなわないわけです。
他の少女達が覚醒していく様を特に同じ魔法世界の住民であるエヴァちゃんはどういう気持ちで見ているんでしょうか。「私の時計も動かしてくれ!」そう思っているのではないでしょうか。


僕は魔法先生ネギま!という作品は中学三年の卒業式で終わると思っています。その理由はさよの存在ですね。他の少女達がいなくなると彼女は退場せざるを得ない。そういう登場人物を当初から用意したという可能性も否定できないですが、彼女には彼女の物語がきちんと用意されていると思うんですよ。むしろ卒業と同時に彼女の存在が無くなるのではないかとすら思っています。それが彼女の存在意義。実は「切なさ」担当だったりしちゃうかもしれない。ぼけたドジな幽霊という設定ですが、彼女の存在は物語の大きな制約になっているんですよ。地縛霊っていう設定をリセットすればどうにでもなるっちゃなるんだけど。


さて、そろそろ本題に戻ります。
エヴァちゃんの時計を動かすにはどうすればよいか。その引き金を引くのは、今のところナギしかいないわけです。
主人公ネギ君が偉大な魔法使いになる目的はなにか。父ナギに追いつきたい、超えたい、そしてもう一度会いたいそういう思いです。
ヒロイン明日菜に隠された過去。そこにもナギが存在しています。


作中の主要登場人物のうち三人は「ナギの呪縛」にとらわれているんですね。


それを踏まえて僕がとらえた魔法先生ネギま!の物語骨格を演出を入れて書くとこうなります。




「ナギの呪縛」から解放(エーミッタム)される


これがこの作品終了の必要十分条件だと思います。


「解放(エーミッタム)」の場面はかっこいいと思います。それでなんとなく使ってみました。赤松健さん的に思い入れがある言葉だからかっこよく見えるっていう可能性もあるかも知れないですが、それが僕の結論と関係と関係すると思いこむのはいくらなんでも妄想だと思います。(まだ読んでから一週間くらいだし・・・)


話を戻すと、いろいろ考えてみた結果、この物語はナギから解放されると終わったように思えるんですよ。たとえラブコメとしての解決を見なくても、最後の敵と戦わなくてもです。例えば最後の敵との戦いの前にナギが現れて「これから一緒に戦うぞ」「はい父さん」で終わるってのもベタだけどありでしょ?ラブコメについては本契約はまだ先だけどしばらくみんなで一緒に魔法世界に行こう!で終わっても別にいいかなとか思うんです。でもナギについては何らかの形で決着しないと終わった感が出てこないんじゃないかと思うんですよ。
例えば
・ナギがネギ君とクラスメイト達の前に現れる
・ナギがネギ君とクラスメイト達の前に現れる可能性がないことが確認される
・ナギが存在しないことをネギ君と他の魔法世界の人々が受け入れる。
・ナギの存在についての新情報を入手してパートナーたちとともに新たな旅立ちをする。
そんな決着が必要なんじゃないかと思うんです。


ナギは魔法世界では死亡したものとして扱われました。ところが、その後にナギを見たというネギ君の存在によって、もしかすると生きているのではないかという疑念が生まれました。その疑念がどのような形であっても解決すればこの物語はきれいに終われると思うんですね。
もちろん終わり方によっては読者の支持を得られるない可能性はあります。しかし「終わったんだ」という感覚は得られると思うんですよ。
もし、いまいちな終わり方でも「これで終わり??続きは??あるんでしょ?」ではなく「こんなんで終わるのかよ。だっせー。」になると思います。


一度この物語を読み始めてしまった僕です。せっかくなんで最後までおつきあいすることにします。たぶんあと5年くらいでしょう。本当にあるかどうかはわかりませんが「ナギの呪縛からの解放(エーミッタム)」を楽しみに待つことにします。




二日にわたり私なりのネギま!の感想を書いてみたわけですがいかがでしょうか。データベース型といいわれるお話でも、一応結論めいたことを出すこともできるんだなと思いました。ネギま!はハヤテに比べてファンも論客も多いので若干不安ではありますがアップロードします。



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