読書感想文 筒井康隆著『ビアンカ・オーバースタディ』 初級版

筒井康隆ってSF作家だったんだなぁ。
ふとそんな事を思い出しました。




帯にあった「2010年代の『時をかける少女』」。こんな煽りにはだまされない。前半部分は既に読んでいるし。そんなどうでもいい予備知識を持って読み始めました。
全体的には流行りとなっているラノベのパロディといったところでしょうか?なぜか美少女がたくさんでてきて、なぜかみんな強くて、なぜか男は弱い。みんながみんなそうではないでけれど、そういう作品に行き当たる事が多いように思えるおおざっぱに「ラノベ」とひとくくりにした作品群全体のパロディ的小説でもあります。そもそも昔からパロディを多数作中で使っていて、この小説にもいろいろと混ぜ込んできている筒井康隆作品だからしようがない。


さて、帯にあった『時をかける少女』。未だに大人気。自分の所のアクセスログをみると、今日だけで100人くらいが感想文を探しに来る。ものすごく大人気。『時をかける少女』が発表されたのはWikipediaによると1965年なんですね。かれこれ47年が経っている。筒井康隆の代表作と言ってもいいでしょう。そして筒井康隆の異色作である事には間違いない。『ビアンカ・オーバースタディ』を思い起こしてみるとこれもまた筒井康隆の異色作になるでしょう。しかし、読んでみると筒井康隆らしさはかなり色濃く出ている。エロというよりグロい描写とか、未来人である事があっさりばれる場面とか、終盤の中二病というよりも大二病とか高二病と比喩した方がいい会話とかラノベというにはちと違和感を持つ部分も多々あります。
筒井康隆作品だからしようがない。


とはいえ、全体としてはラノベの雰囲気をまとっている。ラノベらしさが出ていると思ったのは、なんと言っても物語の結末です。
未来を少しだけ救うために時間旅行したビアンカたち。そこには夢のような世界ではなく、無味乾燥かつグロテスクな光景が広がっていました。未来を知ってしまった高校生たちはそれぞれの思いで「日常」に戻ります。もう2度と会うことはないだろう、でも決して忘れる事がないであろう未来の人々のことを胸に秘めて……。と思いきや!
これがラノベだね。ラノベの1巻だね。引きだね。と思ったんだけれど、読み返してみるとこれがまたちょっと違う。引きというかオチなんですよね。落語のオチ。「またゆめになるといけねぇ」とか「お茶が怖い」っていうのと同じ感覚。物語はこれからも続くけれどこの話はここでお終い、というオチ。筒井康隆ショートショートにはこういうオチの話がわりと多かったなぁと思い起こしています。そう考えると、案外とラノベの特徴と言われているところは、別にラノベだけのものではなくて昔から脈々と受け継がれている物なのかも知れません。
ラノベっぽさという点ではいとうのいぢさんのイラストはほんとラノベっぽい。ビアンカとロッサの2ショットはかわいいなぁと思っちゃったね。うん。今の時代のかわいい女の子の絵っていうとこれなんだよね。10年後にどうなるかはわからないけれど。
しかし、どんなにかわいらしい絵で描かれていても、この美少女様たちはおっかないですねぇ。たぶんそのなんだ。よくわかっているわけじゃないんだけれど「萌え」っていうのとは違うと思うんだよな。


筒井康隆作品だからしようがない。


逆にラノベっぽくないところを挙げるとすると、まず最初に思い付くのは4章までの書き出しですね。同じ文章を重ねている。微妙に変化をつけているのかまでは検証していないけど。とはいえ、これと似た手法は『バカとテストと召喚獣』でももっとこぢんまりとではあるけれど使われているのでこれをもってラノベとは違うなどということはできません。あとは冒頭にも書いたグロさか。それと明確な暴力犯罪。いや、これだって、笑いにくるめるかどうかの差であってそう言う描写がラノベでは許されないということはないでしょう。筒井康隆であってもラノベというジャンルの呪縛から逃れるのは容易ではないんですよ。ラノベと銘打ってしまっているから逃れようがないのですよ。
ところで、読み返してみて気づいたんだけれどいわゆるサービスショット的な絵が無いですよね。小説の中にはパンチラではなくパンモロもあるのにそう言う絵がない。いやまぁ。色気よりもグロさを感じるような描写なので絵にしても萌えないゴミになっちゃうからなのかなぁと思いましたけれど、そこはラノベらしくないところと言えるかも知れません。




筒井康隆作品だからしようがない。




後書きによると続編のタイトルはあるけれど構想は無いらしいです。これは本当に筒井康隆作品だからしようがない。筒井康隆作品で続編というかキャラを濃厚に共有する作品が描かれたのって、俺が知る限り七瀬三部作だけなんですよね。あとはほぼ全て独立したフィクションの世界。だからこの作品世界も筒井さんの中ではこれでお終いだとしてもおかしくはない。というかそう考えるのが普通です。
ビアンカと妹のロッサそして耀子。その後の世界で彼女たちが活躍する創作物をどこにも仁義を通さず誰かが勝手に作ったらそれは二次創作なんでしょうか?それとも作者が「誰か続編を書いてはくれまいか」と後書きに記しているくらいだから、それらの作品は二次創作ではなくただの続編と捉えるべきなのでしょうか?そもそも作者がどう言ったかどう書いたかによってそれって扱いが変わる物なんでしょうか?
そんな根本的な疑問を胸に抱きつつ感想文を終えます。


筒井康隆作品だからしようがない。