読書感想文 太田幸夫著「北の保線」当たり前のことは難しいこと

北の保線―線路を守れ、氷点下40度のしばれに挑む (交通新聞社新書)

北の保線―線路を守れ、氷点下40度のしばれに挑む (交通新聞社新書)



鉄道は大好きですが保線には詳しく無いですし、地味な分野だからあまり興味はありません。それだけに好奇心が刺激されてとても楽しくこの本を読むことができました。




鉄道の車両や配線、そして速度は誰の目にも留まるいわば派手な分野ですが、それを支える保線というのは失礼ながら地味な分野です。最寄り駅に保線基地があり、時々保線用の機械が止まっていて、それがマルタイというものだということは知っていますが、その機械が導入されるまでは当然人力で保守をしていたわけでして、ものすごく大変な仕事だということは想像に難くありません。
線路の狂いを修正し道床の砂利をつき固め補充し、必要ならばレールを交換する。機械を使って省力化しているとはいえやっていることは今でも変わらない。
風情は無いけれど、ジョイント音が聞こえないロングレールに交換したり、コンクリートで固めたスラブ軌道を導入する路線が多いのは、その手間を省き、その結果として安全で安定した運行を維持できるから仕方が無いのでしょうね。


この本で紹介されているのは北海道の鉄道路線です。北海道では日本のほかの地域とは股違う苦労があるとのこと。道床が凍って線路が押し上げられ、その対応をしなければいけないんですね。持ち上がったところを下げるのではなく、下げたいのだけれど現実問題できるはずもなく、その周りの枕木にあて木をして線路の狂いを許容範囲に収めるという技があるとは知りませんでした。おそろしく地道ですよね。
道床が溶けたら当然また狂う、当然それもまた修正しなければいけない。
本州と同じような保線作業も当然やるけれど、それができるのは雪が無く凍らない夏の間だけ。
大変な仕事です……


利用者にとっては2本のレールの上を列車が走るのは当たり前のことです。しかし、その当たり前のことが当たり前にできるためには、多くの人の汗が流されて、知恵が振り絞られているのもまた当たり前のことなんです。




蛇足ですが……
この本は北海道の線路にまつわる一連の問題が発覚する前に出版されています。当たり前のことが当たり前になされないとどういうことになるのか、何もしなければどうなってしまうのか、保線という地味な仕事の大切さは図らずも多くの人の知るところとなってしまいました。