「スバリスト」という幻影

2015年現在、スバル/富士重工が絶好調であるという報道を多く目にします。特に北米での業績が絶好調、売れすぎて販売機会損失を心配する状況であるとのことです。
その事象について、私は非常に冷めた目で見ています。
日本の自動車メーカーが世界企業になるにつれ、規模の大きい自動車メーカーが消費地に工場を作って対応してきたのに対して、スバルは他のメーカーの傘下で主に国内生産で需要をまかなってきました。そのため、円安の効果を非常に強く享受することができ、業績面が好調になったという単純な図式と見ています。


そのような報道がなされるときに必ずセットで言及されることがあります。
北米で、そして日本国内でも、スバルというブランドはプレミアムブランドになっている、という言い回しです。「スバリスト」という私が車に興味を持った数十年前にもあった言葉が使われることもあります。
私自身もかれこれ15年くらいスバルの車に乗っています。しかしどうもしっくりこない。本当に「スバリスト」なんていう人はいるのでしょうか?本当にスバルというメーカーが作った車はユーザーにとってプレミアム感を持っているのでしょうか?




日本で言えばメルセデスベンツBMWを代表とした欧州の高級車メーカーがプレミアムブランドと言えるでしょう。国内メーカーでいうとトヨタが立ち上げたレクサスがその代表格。同じことをやろうとした日産とマツダはうまくいきませんでした。スバルはいまやトヨタ傘下。もしもスバルがプレミアムブランドなら、トヨタは2つのプレミアムブランドを持っていることになります。
そうやって並べてみると少なくとも日本ではスバルにプレミアムを感じる人は少ないのではないでしょうか?
その理由として、今は製造をやめましたが軽トラックの存在があります。スバルというと軽トラというイメージがどうにも強いです。プレミアムとは対極にある日常的な存在、そのイメージが強いです。
アメリカでは軽自動車という概念がなく、そういう車を売ることは無かったから、スバル車の特徴を好意的に受け止めてもらいプレミアムブランドと認知されたということでしょうか?


さて、そのスバル車の特徴というのはなんでしょうか?
それを一言で表現したすばらしい言葉を私は知っています。
「実用的で楽な車」
漫画『頭文字D』の中で主人公の父親がインプレッサを評した言葉です。


実用的で楽、実はそれは前述した軽トラにも通じています。過剰な意識をすることがなく操ることができ、必要なときに必要な仕事を当たり前にこなしてくれる。私がスバルの車に持っている印象はまさにそれです。


私はスバルの車に約15年乗っています。その前には別のメーカーの車に10年以上乗っています。一般的な意味でのプレミアム感、所有する喜びという観点では、スバルの車よりも前に乗っていた車の方が圧倒的に強かったです。自分の腕では曲げるのに一苦労する車、発進が難しい車、アクセルコントロールを間違えると制御が難しくなる車、それらの特徴は負の面が強いですが、それを乗り越えられたときの喜びは代えがたいものでした。
初めてスバルの車を購入したとき、その動機は今まで同様後ろ向きでした。「他に選択肢がない」、その一言につきます。予算とスペックの兼ね合いで候補に入る車がそれしかなかった。だから購入しました。
最初に乗った車はそれなりに問題点がありました。発進時にぎくしゃくする、コーナーでのロールがきつい、その特徴を手なずける楽しさはありましたが、それ以上に四輪駆動による安定した走行の楽さが印象に残りました。
不幸にしてその車はダンプとトラックに挟まれて潰されましたが、その代わり安全な車であるという強い印象が残り、やはり他に選択肢がないという後ろ向きな条件もあってモデルチェンジ後の同じ車に乗り換えました。
そうしたら、前のモデルで感じていた足りないものは払拭されていて、本当に何の不満もなく何の意識もなく当たり前のように足として使える車になっていました。
まさに「実用的で楽な車」です。


人間、一度楽を覚えるとなかなか元には戻れないものです。今だって難しい車に乗ってみたいという願望はありますが、決して少なくはない予算を出して車を買うとしたら乗ってみて楽だった車にしたくなってしまいます。そういう意味ではスバルというメーカーの車が第一候補になってしまいます。
しかしそれはプレミアムブランドというのとは違います。もっと後ろ向きな消去法による評価です。


いろいろ考えてみましたがスバルがプレミアムブランドとして認識されるという理由には思い至りませんでしたし、スバルの車でなければだめだという積極的な理由には至りませんでした。
ただ、一つだけそうなる要素はあります。
今のスバルの車は実は一つであるということです。
軽自動車、コンパクトセグメントから撤退したことにより、すべての車種で一つの技術を共有しています。それによって結果的に車種とブランドイメージが紐付くのではなくメーカーとブランドイメージが紐付いて、このメーカーの車にはこういう特徴があるということが顧客にわかりやすく伝えることができるようにはなっています。
しかしそれもまた後ろ向きな理由です。


うーん。わからない。本当にスバルはプレミアムブランドなんだろうか?本当に「スバリスト」なる人種はいるのだろうか?