読書感想文 ヤマグチノボル著『ゼロの使い魔』

ライトノベルの読書感想文を書くのは本当に久しぶりだし読書感想文自体書くのが久しぶりです。
その、久しぶりというのを置いておいてもネットという公開の場所にこの作品の感想を書くに当たっては一言だけ断っておかなければならないことがあります。


この作品の感想をいわゆるネタバレを完全に回避して書くのは困難です。


本の感想を書くときには、事前にテキストファイルで何度か推敲をしてからアップロードする時はもちろん、今日みたいにWebのフォームでいきなり書き始めて書き終わったら直接更新する時でも、こういう構成にしてこういう結論にしてというのを考えてから書いています。いずれの場合も書いているうちに明後日の方向にいくのはよくあることですが、小説などフィクションの感想を書く場合は致命的なネタバレは避けるようにという意識を働かせています。もともとが推理小説が好きで、推理小説の感想をネタバレ入りで書くのは良くないという意識があるので自然とそうなっています。
どうしてもネタバレをする場合もぼやかして書くにはどうすればいいかみたいなことを趣味的に考えてみたりして、それを考えるのもまた一つの楽しみだったりします。
だから、今日の感想文でも最終的には致命的なネタバレはせずに書くことができるかもしれませんが、現時点でネタバレを回避して書くのは非常に難しいかなと思っています。
なので、未読の人がこの感想文を目にしても読まない方がよいです。今日私が書くのはレビューではなく感想です。この本を読むかどうか決める参考になるような情報は一切含まれていません。




さて、本題に入りましょう。


ゼロの使い魔』が完結しました。
物語は終わりました。
ご存じのように著者がお亡くなりになるという不測の事態を乗り越えて物語は完結しました。


スト2巻。生と死の境界を越えるという未だ人知が及ばない領域が存在するということを認めないとしたら、なんかすごいことが起こっていました。
再現性がすごい。
文体はもちろんプロットやキャラ設定まで、後世事情を知らない人が読んだら同じ人が最後まで書いたと思うのは無理がない状況になっていました。もちろん作者と生前濃い時間を過ごしていたであろう編集担当者の手厚いサポートはあったとは思いますが、ここまで再現性が高いものを書けるというのは相当の力を持つ人なんだろうなという想像をしています。もしかすると複数人の時間がかかる共同作業によって初めて成り立ったのかもしれません。
文体模写は何となくできそうな気はするけれど読んでいて自然に受け入れられるようなプロットの模写は非常に難しいのではないかと想像しています。
この作者だとこういう流れになるよねぇみたいなのを自然と想像しながら読んでしまいますが、そこから大きく外れないし、外れる場合もこの作者ならしょうがないという方向性に外れていきます。
実際に書いた人の名前を明かさないという方針があったにせよ、それだけにものすごいプレッシャーがあったのではないかと想像しています。ヤマグチノボルになりきって物語を完結させる。この難しい作業をやりきったことに対する賛辞を惜しむことはできません。作者の死という事態に陥って完結を見なかったり、別の作家の手により簡潔をしても物足りなかったりしたことを何度か経験をしているだけに、物語の本筋とは外れますが、まずそこははっきりさせておかなければいけないかなと思います。






ライトノベルと総称される一群の小説を読み始めてから数作を読んできています。ラノベファンというほどは数はこなしていないですし、小説全体を範囲としても熱心な読書家というほどではありません。
そういう状態ではありますが、もし仮にライトノベルというジャンルを全く知らない人に「おすすめのライトノベルってどれ?」と聞かれたとします。
それほど読んでいるわけではなくても「ライトノベル」とひとくくりにできるようなものではないことは知っているし、その中でその人の趣味嗜好が完全にわかっているわけではないのでお勧めするのはおこがましいとは思います。それでも、どうしても何かを紹介してほしいと言われたら、私はこの『ゼロの使い魔』をお勧めします。


これぞ知らない人がイメージするライトノベルなんじゃないかなと。
ファンタジー世界、戦闘、かわいい女の子たち、三角関係、変態。それらすべてが詰まっています。もちろんすべてのライトノベルが『ゼロの使い魔』みたいな話だと誤解されると困りますがとっかかりとしては最高の作品です。
私がライトノベルというジャンルに手を出した初期にアニメが話題になってたので読み始めたという経緯があるために余計にそう思えます。アニメを見たときに「王道!」と思い、原作を読んで「王道!」と思いましたからね。こういうファンタジーものに抵抗がない人なら物語の大筋は抵抗なく受け入れられるのではないでしょうか?もちろん些細な部分で受け入れがたい部分がある人がいてもおかしくないですが。特にこの作品の場合は最後まで癖はあります。それも含めお勧めなんですよね。
そしてもう一つ、おすすめできる理由は下敷きとしている古典があるということです。『ゼロの使い魔』を入り口にして『三銃士』を読んだ人もそれなりにいるんじゃないかと思います。別にライトノベルというジャンルに限った話ではありませんが、作家の強い思い入れを感じられる作品っていうのは個人的に読んでいて心地いいです。「ああ、この人これが好きなんだな」「他の人にもこれを読んでもらいたいんだな」「もしかしてそれを読んでもらいたいがためにこの作品を世に出したっていう面もあるのかもしれないな」ってほっこりした気持ちになれます。そういう感覚を味わえることも『ゼロの使い魔』をお勧めしたいと思う理由の一つです。
そして最重要な要素。それがこの作品が、完結しているということ。それが大きい。最後の1行まで読むことができます。途中までしか著されていない作品をお勧めするのはどうも好きじゃないです。よっぽどのことがないと難しい。最後まで行くと自分が思っているのとずれることもあるだろうし尻切れトンボに終わる可能性だってあるし。読者としての気分が盛り上がるのは読んでいる途中ですが、きれいに完結している方が他の人には断然お勧めしやすいです。




異世界に吹っ飛ばされた主人公がその世界の女の子と恋に落ち、世界の命運を握り仲間とともに命をかけて戦うという王道中の王道と言った感のある物語。そこに元の世界に戻るか戻らないかという選択が絡んできて少年少女は選択を迫られその選択が正しいかどうかはわからないけれど自分の道を選んだところで物語が終わる。そのあらすじだけ話すとライトノベルとかそういうのは関係なく良質も冒険ファンタジー小説としか言いようがないです。
最初に書いたけれどここまで書き進んでも未だにネタバレを回避する方法を模索していてこれで感想を終わらせるのも一つの方法かなとも思うんですがやっぱり少し書き足りないからあがいてみますか。
結局、最後は主人公とヒロインはそれぞれわがままを通すという選択をし、そのわがままは自分の命をかけて愛する人を守るというわがままなんですけれどね、しかし、それをサポートする周囲の力によってみんな幸せなハッピーエンドを迎えると思いきや、最後の最後に主人公とヒロインはやっぱりわがままで周りには関係なく自分たちの道を進んでしまうというのがなるほどヤマグチノボル氏ならこの結末を選ぶなということでものすごく納得感があります。余韻が残りこの後の物語を予感させる終わり方もすばらしかったし、編集の都合もあったと思いますが、この終わり方なら後書き無しというのがそれはそれで一つの効果になっていてすばらしいと思いました。


えっと、ネタバレは回避できてるかな。いや、回避できてないな。どうぼやかして書いてもこの作品の場合結末の感想を書こうとすると回避することは難しいのかなと思いました。




こういう作品は時代を超えて生み出されると思います。『ゼロの使い魔』がこの時代に描かれた冒険ファンタジーとしては代表的な作品の一つになるんじゃないかなと今は思っています。
最後まで読まさせてくれてありがとうございました。