『涼宮ハルヒの消失』 ハルヒの想い

この感想ではある程度作品内容に触れています。未読の方はご承知おきください。


涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)



前にも何度か書いていることだと思うが、俺は物事を単純化するのが大好きだ。別の言い方をすると、まず、本当は複雑な物を単純化して考え、自分に理解できるレベルに落とし込まないと気が済まない。
そういう指向が強い人間が書いた感想文であるということをふまえた上でお読みくだされば幸いである。


さて、涼宮ハルヒシリーズの中でも評価が高いらしい『涼宮ハルヒの消失』を読んでみた。
この感想文はアニメも見ず、この先原作となる小説も読む予定がない人を仮想対象読者としているのであらすじを書く必要がある。しかし、実際に読む方はほとんどが小説あるいはアニメを見た方である。『消失』は今後アニメ化される可能性があるので、この感想を書くことに必要がない小説の重要部分については触れないであらすじを書いてみようと思う。




涼宮ハルヒという世界を変える力を持つ少女と出会い、非日常的な日常を送ることになった主人公「キョン」。しかしその日常がよく冷えた12月のある朝突然消えて無くなった。ハルヒにより世界が変えられてしまったことを予感し、元の世界に戻るすべを模索するキョン。彼は元の世界に戻れるのか。そして世界を変えたのはハルヒなのか。




えらくさっぱりしているあらすじだが重要部分に触れなければこんな物であろう。


この小説では一見すると非常に複雑な物語世界が構築されている。空間を越えて存在する登場人物たち。時間を超えて世界を元に戻そうとする主人公とその協力者たち。うっかりしていると読者が混乱しそうな展開である。
また、この一編では『涼宮ハルヒの退屈』収録の『笹の葉ラプソディ』というエピソードが重要な伏線となっている。それがまた読者を混乱させる。


しかし、ある見方をすると、この作品は今までのシリーズの作品の中で最も単純化することができるのである。


まず、俺がとらえているこのシリーズの虚構世界を書いておこう。

レベル5   作中作
レベル4   この小説でえがかれている世界
レベル3   考えていることを現実にする力を持つ少女、涼宮ハルヒの世界
レベル2   考えていることを現実にする力を持つ少女、涼宮ハルヒを想像した何者かがいる世界
レベル1   作者や俺たちが住む現実世界



このレベル分けを採用すると、『消失』では主人公キョンが別のレベル4の世界にとばされたのではないかということになる。そして、レベル3のハルヒはレベル2の何者かによって能力を奪われ、その能力をレベル4の何者かが一時的に拝借したという構造になる。
この読み方をすると、5つのレベル分けというのは当たらずとも遠からずなのでは無いかなとも思う。


しかし、あえて違う読み方を提案したい。
『消失』ではレベル2が消えている。
そのことについて書く前に、約束事を書いておく。
ハルヒキョンが非日常的な生活を送っている作中世界を「世界A」とする。
この作中でえがかれた、それとは別の世界を「世界B」とする。
このシリーズの登場人物について記述する際、どの世界に属しているのかを明記する必要がある。涼宮ハルヒを例にすると、ハルヒ(3)、ハルヒ(4)A のように記述することにする。なお、主人公キョンはこのシリーズ中でレベル4のどの世界でも同一人格を保っているように描かれているので、キョン(4)と表記する。


今までのシリーズ各作品を読むと、ハルヒ(4)Aはハルヒ(3)を内包していることがわかる。ハルヒ(4)Aがご機嫌ならば、世界Aは安定し、不機嫌になれば神人が暴れ出し、見切りを付ければ世界Aをぶっこわしてキョン(4)とともに別の世界に旅立ってしまう。
そこに注目すると、『消失』はハルヒ(3)が主人公のラブストーリーである。
ハルヒ(3)は何らかの理由でキョン(4)を愛しているようだ。そしてキョン(4)も潜在意識ではハルヒ(4)Aのことをかなり気にしている。
キョン(4)がハルヒ(4)Aを愛してくれればそれはキョン(4)がハルヒ(4)Aに内包されているハルヒ(3)も愛することを意味していると考えてみる。
この作品でキョン(4)がとばされてしまった世界Bのハルヒ(4)Bはハルヒ(3)を内包していない。ハルヒ(4)Bには世界を変える力が無いからだ。世界Aとほぼ同じ人物が存在する世界Bを構築することによって、ハルヒ(3)はキョン(4)が自分を選んでくれるか否かを試そうとしていたのではないだろうか。


印象的なのは、キョン(4)に言われて素直にポニーテールにするハルヒ(4)Bである。しかし、キョン(4)は世界Bから世界Aへ戻ることを選ぶ。これはキョン(4)がハルヒ(4)の外見のみを愛している訳ではないことを示している。ハルヒ(3)を内包していないハルヒ(4)Bと日常を送ることを選ぶかどうか、その選択をハルヒ(3)がさせるようし向けたのではないか。
キョン(4)はレベル4の世界で例外的にハルヒ(3)の思い通りにならないのである。


キョン(4)は世界Aに戻ることを選び、そのために奮闘をした。しかし、それはハルヒ(4)Aとともにいたいと思ったためだけではない。有希(4)A、みくる(4)A、一樹(4)Aをはじめとする、非日常的な日常を送っている仲間と一緒にいることを選んだのだ。


涼宮ハルヒの消失』でのハルヒ(3)は不機嫌になったり憂鬱になったりはしていない。ただ、キョン(4)を試しているだけだ。だからレベル2を考える必要がないのだ。


レベル3の涼宮ハルヒの想いは届いたのか。それはまだ読者にはわからない。




レベル分けの考え方、シリーズエンディングの推測への自信は揺らいでいますが、他に良い考えも浮かばないので、現時点ではまだ前に書いたことを訂正しません。


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記事カテゴリー 涼宮ハルヒシリーズ


カテゴリ 読書感想文
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