樋口一葉著『たけくらべ』いつまでも読んでいたい
何度も書いていますが、名作感想文シリーズは中学生高校生をターゲットとしています。自分なりにそういう若い人向けに書いてみたつもりです。でも最後となる今日は素で書きます。ターゲットを想定して感想を書くのが無理です。
短い小説なのに、すごく時間がかけて読みました。『にごりえ』の感想でも書いたように、この著者の小説は読みづらいってのもあります。口語と文語の中間的な言葉で書かれている上に地の文と会話がシームレスにつながっているから。でも、それ以上に、この作品世界から抜け出したくないという思いを持ちました。なんか、ものすごく心地いい世界なのですよ。
解説を読むと、樋口一葉氏は写実的な表現を評価され、その表現方法を使って明治を生きた下層庶民の女性の悲しさを描いたと評されています。確かにそうなんでしょう。
この小説で描かれている明治の日本の姿って言うのがものすごく生々しいんですよ。おそらく発表当時写実的と評されたのはそういうことなんだろうなと思います。
でも、我々は平成の日本に生きてきます。明治の日本はある意味空想の世界と同等です。私からすると、ものすごく詳細に虚構世界を描写しているように読めてしまう。なんか優しい世界なんですよね。
私自身も東京の下町に住んでいました。物語の舞台となっているエリアにも子供の頃から何度も行っています。地名もわかる。でも、私の知っている場所とは違う場所なんだと理解できます。平成の日本に住んでいる我々にとっては空想の中の場所になっています。
この小説ではその架空の場所で架空の時間を生きる子供たちの姿が生き生きと描かれています。この作品世界の中にずっと身を浸していたいような気分になります。しかし子供はいつか大人になる。大人になると厳しい現実が待っている。そういう切なさの中でお話は終わってしまいます。面白いって言葉で片づけていいものだろうか?
『涼宮ハルヒの憂鬱』では、その設定上の仕掛けによって読者を虚構の世界に取り込もうとしているわけですが、『たけくらべ』では、その表現だけで読者を虚構の世界に取り込んでくれます。なんでそんなことを私が感じるのかはわからないのですが、とにかくすごい。驚きました。こんな小説が100年も前の日本に存在していたんです。しかも100年前には「写実的」と読む人が思っていた物が、現代では「詳細にえがかれた生々しい架空の世界」と捉え直すことが可能なのです。この人すごいですよ。
最後に、極めて個人的な感覚を書いておきます。
この小説ね、かわいいんですよ。文体がかわいい。冒頭にも書いたように口語と文語の中間で硬い文体に見えるんですけれど、そこはかとなくかわいさがにじみ出ている。その理由はわからないんですけれどとにかく可愛い。
もしかすると、樋口一葉を高く評価した明治の文豪たちも実はただ単に「萌えて」いただけなののかもしれませんよ。そう考えるとなんか楽しいじゃないですか(笑)。
青空文庫 たけくらべ
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