大野晋著『日本語の源流を求めて』読んだ方がいいと思う

日本語の源流を求めて (岩波新書)

日本語の源流を求めて (岩波新書)

すごい本。買って良かった。


本屋に平積みされていてタイトルに惹かれて何となく買いました。そういえば日本語の起源が南インドみたいな学説ってあったなぁ、今どうなっているんだろうみたいな軽い気持ちで…。
ところが、いざ読み始めてみると圧倒されました。これ読むのに1週間以上かかっているんですよ。なんかね、例えは悪いかも知れないけれど、紙を通して著者ににらまれているような感覚ですよ。文体はソフトだし別に「XXべきだ」みたいな書き方もしていないし、特定の考え方に固執しているわけでもない。なのにものすごく「凄み」を感じる本です。
著者はその道では第一人者とのことです。多くのページを割いてそのことをまず解説しています。それは決して自慢ではないのですよ。日本語の起源を南インドに見いだしたのは、単なる思いつきや発見ではなく、その前の研究があればこそだったということを著者はおっしゃっている。少しずつ積み重ね積み重ね…、ある時タミル語に行き当たったということが言いたいはずなんです。


ライフワークって言葉ありますよね。うちの業界でも地道に一人で仕事をしていると「それ、ライフワーク?(藁」みたいな茶化され方をすることも多いです。この本を読み、ライフワークって言葉は安直に使ってはいけないのかなと思いました。
これぞまさにライフワークですよ。ある問題の答えを見つけようと努力して努力してようやくそれらしき物に出会い、それを突き詰めれば突き詰めるほど確信に変わっていく。ライフワークってのはそういう仕事のことを言うんじゃないかなと思います。
縁起の悪い話ではありますが、こういう大きな問題は著者が存命の間に答えが出るとは思えないです。もしかすると、数十年、数百年後にようやく「評価できる状態」になるのかもしれないです。そういう仕事、そういう問題に出会えた喜び、そして、ちょっとやそっとの事では揺るがないであろう信念、その辺りがこの本に「凄み」を与えているのかなと感じました。


私がこの本を手に取ったのは単なる知的好奇心からです。しかし、もし、言語学や、日本語という物や、あるいは日本という国に興味を持っている人が読めば、私とは比べ物にならないくらい多くを得ることができると思います。
この本はお薦めです。
この本が数百円で買えるんですから絶対買いです。