読書感想文 竹宮ゆゆこ著『とらドラ!』 川嶋亜美について



思ったんですよ。


きっと、この子は竜児に告白するんだろうなってね。


そして、結果的に竜児に振られちゃうんだろうなってね……。





とらドラ!』第3のヒロイン、川嶋亜美。第3って言うのは登場順で言って3番目です。
以前書いたラブコメのヒロイン類型に関する記事に「亜美は演技派」というコメントをいただきました。

この記事を書いた当時、まだ『とらドラ!』は読んでいませんでした。その後この作品を読み始めたわけですが、川嶋亜美への第一印象は「テンプレート化されたやな女」でしたねぇ(笑)。どこに出しても恥ずかしくないやな女です。でもたぶん男はころっとだまされるやな女です。ただ、それでおわらないということは上記のコメントや、その後いただいたコメントで予想はしていました。
しかし、まさかこうなるとは思っていなかった。


川嶋亜美は、ラブコメのヒロイン類型にははまっていない。むしろ、少年漫画の類型である「長老」タイプにはまっています。




私は本編6巻までとスピンオフ2までを読み終えました。そこまで読んだ結果、亜美はものすごく勘が鋭い少女として描かれています。彼女には人が言葉にしない心の奥を読みとる力がある。他の登場人物の行動を読むことができて、他の登場人物が知らないことを知っている。それを私は「長老タイプ」と表現しています。しかし、そのことを彼女自身は決して「優れた能力」とばかりは思っていない。
と書いてふと思ったんですが、彼女の原型は筒井康隆の産み出した「火田七瀬」なのかもしれません。
話が逸れそうなのでそれについては深く立ち入らないようにして……。
なんにしろ、彼女は本当の自分を隠して生活するすべを身につけました。彼女自身、それをよしとしているのか、それは作中からは読みとれていません。


そんな亜美は北村祐作と同じ学校に通うことになってと出会うことによって大きく変わりました。本当の自分を受け入れて、本当の自分つきあってくれる友だちに出会うことができたのです。、高須竜児、逢坂大河、そして櫛枝実乃梨。この3人は亜美を亜美として受け入れ、喧嘩をしながらもありのままの亜美にためらいなく声をかけてくれたのです。


そして、、亜美は恋をしてしまった。同性に見せる底意地の悪さからではない、本心で恋をしてしまった。
その相手が、高須竜児。


ここまではそう言う流れであると読みとっています。


亜美のポジションに近い別作品の登場人物というと『ハヤテのごとく!』のマリアさんを思い浮かべます。今日はこれからハヤテ感想を書くので遠慮無くいかさせていただくと、マリアさん同様自分の周りにいる人たちの心の向きはなんとなくわかっている、しかし、いや、マリアさんはまだそこまで到達していないのですが、自分自身の恋心と周りの人たちの恋心との折り合いに苦労している。そんな風に思えます。後半部分はヒナギクさん的と言えばわかりやすいですかねぇ。ただまぁ一歩引いた位置から見ているような立ち位置がマリアさん的と考えた方がしっくりくるんですよねぇ。


亜美にはマリアさんみたいなしがらみはありません。大河の保護者は別にいるし、実乃梨への遠慮もそれほどない。亜美が指摘した実乃梨の「罪悪感」の正体は実乃梨の竜児への思いなんじゃないかなぁ。実乃梨は理性では大河の幸せのために竜児と大河のエンディングを望んでいるけれど、感情面では竜児のことを強く意識しているように思える。
でも、亜美はそれに遠慮はしない。
だから、思うんです。
私が読んでいない7巻以降で亜美は竜児に告白しているんだろうな、と。
しかし、この作品の流れから見て、彼女の恋がかなう可能性は低いとも予想しています。




「亜美ちゃんかわいそう」と自分で自分を茶化しながらも、今まで流したことが無い種類の本当の涙がほほを濡らす。彼女にはそんなエンディングが用意されているような気がしてなりません。




とらドラ!』という物語での亜美のストーリーはそこで終わってしまうのかも知れません。しかし、この作品の登場人物が暮らす架空の時空の中で亜美には新しい別のストーリーがはじまるはずです。