読書感想文 佐藤健太郎著『医薬品クライシス−78兆円市場の激震』

医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)

医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)



株式相場のニュースを見たり聞いていると、医薬業界の企業は特殊な位置づけをされているような印象を持ちます。一発当てればものすごいことになる。一度当てるとある一定の期間継続して莫大な利益を生み出し続ける。一発当てるためには相当の研究開発投資を継続して行わなければならない。そのために昨今世界規模にわたる業界の再編が起こっている。報道など、表面上の情報からはそのような理解をしていました。




しかし、この本を読むと現実は違うようです。現代の医薬品には過去には求められなかったレベルの安全性が求められるようになり、それは、そもそも医薬品の持つ根本的な機能とは両立し得ないレベルにまで達しているようにも思えてきます。つまり、作用と副作用、それは表裏一体であり不可分である、そのことが、科学が発展するに連れ、逆に忘れられてしまうようになったのかなぁと言う印象すら持ちました。


現代社会の人間は科学を過信している。自分たちに都合がいい「だけ」の物以外は認めなくなっている。自分たちに都合がいい「だけ」の物ができるはずだと信じ込んでいる。


新書レベルの知識ではありますが、分子生物学的な本を何冊か読んだ私にとってもかなり刺激的な内容が含まれています。さらに、ビジネス書として読んでみても面白いです。問題提起にとどまっているという意見はあるでしょうが、冒頭に書いたような巨大資本は新薬を生み出せなくなっているにもかかわらず、ベンチャー的な企業から今までとは全く違う発想から薬が生み出されていく。なにもこれは医薬品という特異な業界だけに限った話ではないのかなと思いました。




最後に、例によって余談ですが……

この本の筆者が管理していらっしゃるサイトです。
非常に大それた話ではあるのですが、こちらのサイト、私自身の目標の一つです。私には特筆できるほどの専門知識を持つ特定の分野はありません。なので、決して到達できることがない目標ではあります。ただ、上記サイトのような、関連性がないさまざまな分野について、それなりの情報が提供できるサイトを作りたいなぁと思っております。
思えば、有機化学美術館にたどりついたのは、道路のリンクをたどってだったなぁと……。
そして、これは断片的な情報からの想像に過ぎないのですが、専門分野は全く違い、個々にみると全く違うとは思いますが、根本的な考え方はこの本の筆者と私との間で近い物があるのではないかなとも感じているのです。