読書感想文 小惑星探査機「はやぶさ」の超技術 プロジェクトの立ち上げから期間までの全記録



濃いです。すごく濃い。そして面白い。読む人によっていろいろな感想を持てる本です。ビジネス書としても一級品でしょう。


工学の知識は無いのですが、要素技術について門外漢にもある程度理解できるよう、平易に解説されています。私見ですが、こういう本は「本当にわかっている人」が書かないとその世界を知らない人には決して理解できないと思うんですよ。わかっているからこそ平易に書けるというのは有ると思うんですよね。


人に薦めたくなる本にはありがちなのですが、結局この本は自分で手にとって読んでみるのが一番です。人それぞれ感想は違うだろうし、そもそも一読しただけでさくっと感想が書けるような本では無いです。
とはいえ、読書感想文を書き始めてしまったので(笑)、とある一面を極めて薄っぺらくなぞって感想を書いてみることにします。



プロジェクトで元々想定して対処していた故障は、実はリアクションホイール1台の故障だけでした。

川口淳一郎氏の手による後書きにある、どうということのない、事実を淡々と伝える1文です。
なのに、なぜかその1文を読んだ瞬間に涙が出てきました。泣くような要素はどこにもないはずなのになぜか泣けてしまいました。


本編では、プロジェクト全体の流れと「はやぶさ」に与えられた要素技術と使命が語られています。この探査機の難しいところは、課題が直列に並んでいるというところだったとのこと。このプロジェクトに限らず宇宙開発というのは往々にしてそう言う物にならざるを得ないのかなと素人考えでは思います。
まずロケットの打ち上げ。それに成功しなければその先には進めません。話は逸れますが、そのロケット自体についても、現在主力のHIIAと「はやぶさ」を打ち上げたM-Vとの違いは全く理解していませんでした。どっちが優れているとかではなく、用途が違うということなのですか……。惑星間探査機を飛ばすにはHIIAは効率が悪いのか……。でも、今飛ばせるロケットはHIIAとHIIBしかないからあるものでがんばるしかないんですよね。とまぁその話はおいておいて、ロケットが無事に飛び立ったら、狙った軌道に探査機を投入しなければならず、その軌道に入ってからもずっとイオンエンジンを稼働させなければならず、目的地のイトカワについたら観測しなければならない。一応観測しなくても着陸はできるみたいだけど、観測しない以上は一か八かのチャレンジになっちゃうみたいなので観測せざるを得ないわけだし、うまいこと着陸したら帰還しなきゃならないし、大気圏突入を成功させなきゃいけないし、カプセル回収もしなきゃならないんですよね。
それらがほとんどうまくいったのがはやぶさプロジェクトだったんですね。


一般の報道でも、はやぶさのトラブルは何度も報じられていました。しかも、冒頭に書いたように、それらのうち一つを除いては「想定外」のトラブルだったということです。
「想定外」の出来事が起こること自体が「想定内」なんですよね。そして、「想定外」のできごとに、いかに対処するかで真価が問われるんですよね。なにもかも初めて経験する事象なのですから。
他の人が既に通った道を歩けば「想定外」の出来事に遭遇する確率は減るでしょう。しかし、そこから何かが産み出される確率も同様に減ってしまう。「想定外」の出来事を経験することによって初めて、「想定内」の出来事を増やすことができるのでしょう。




さて、話を変えます。
宇宙探査のプロジェクトの進め方というのは全く知らなかったのでとても興味深く読みました。手段の研究のために目的を作るというやり方もあるんですねぇ。手段=工学、目的=理学、と単純に振り分けて良い物とは思えないのですが、おそらくはわかりやすくするためにそういう理解ができるような書き方がなされています。
イオンエンジン=異音円陣、には失礼ですが笑いました。ものすごく苦労したんだなぁと……。でも、その苦労もまた楽しい苦労であるんでしょうね。
工学というのは、制約の学問なのかもしれないなぁとも思いました。はやぶさで言うと、重さの制約がとてもきつかったようです。本来なら2重化3重化という冗長化をしてトラブルに対処すべきところができなかった。なので、議論を重ね、重み付けをしてどうしても冗長化すべきところとリスクを取るべき所を切り分けたんですね。その作業だけを考えても気が遠くなりそうです。


要素技術についても大変興味深く読みましたが、なんせベースとなる知識がないので「面白いなぁ」という感想しか持てません。でも、ホント面白いですよ。宇宙という人間が手を出せない空間に行ってしまう機械を、たとえ壊れても最低限の機能を維持できるようコントロールする仕組みを作っているんですからねぇ。面白くないわけがない。


はやぶさプロジェクトは幸運に恵まれて小惑星からのサンプルリターンという最終目的まで果たすことができました。だからこそ、これだけ話題になり、次の計画にも予算が下りたのでしょう。
しかし、成功したから次もやる、という考え方はただしのでしょうか?というか、失敗したらやめる、という考え方は正しいのでしょうか?私にはそうは思えないです。失敗に終わったプロジェクトだって、はやぶさと同じように想定外のトラブルに見舞われて、そこではやぶさと比較するとちょっとだけ運が悪かっただけなんだろうなと想像するんですよ。みんな必死にやってる。必死だけどたぶん楽しんでやっている。楽しいんだけれど、その結果得られた物が、それがたとえ「失敗」であっても、何かの役に立つことを信じてやっている。その道が袋小路であったとしても、袋小路であることを証明できればそれはそれで絶対役に立つはずなんですよね。


\1,140と、ブルーバックスの中では比較的高価な本ではありますが、その価格以上に満足しました。
とても面白い本です。無条件で他の人にお薦めできますね。