読書感想文 伏見つかさ著『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』6・7・8





そもそもきっかけは3月の地震でした。


千葉県の松戸市にある俺の自宅もそれなりの被害を受けました。幸い、偶然たまたま家に住めなくなるような状況にはならなかったのですが、ええ、すぐ近くにも結局建て替えなければならなくなった建物があるのでほんと、たまたまなんですけどね、外づらは問題なくても中はしっちゃかめっちゃかになってしまったんですね。
入りきらないので二列二段とかわけわからない入れ方していた俺の部屋の本棚も、つっかえ棒してたのに中身がぶちまけられてしまいました。本棚から飛び出した本の山には地図とか時刻表とか鉄道関係の本とか、推理小説に普通の小説、車の本にコンピュータの本に漫画に同人誌、といった感じで、この部屋の主がオタクであることはわかるけれどどういう方向性をもっているのかがさっぱりわからない状態になっています(笑)。写真撮られたら破滅かも。まぁ、この日記からある程度想像はできるでしょうが……
それはともかくとして、最近そんなカオスな本棚にライトノベルも加わっています。3ヶ月近く経って大きな余震も減ってきたので、1年くらいは大きいのが心配ですけどね、本格的に本棚の修復を始めました。遅いんだよなぁ。単にめんどくさかったから……ですね。
本棚の整理というのがどんなに危険で時間のかかる作業なのかはわかる人にはわかると思います。本棚にしまってから何年も読んでない本が掘り出されるとついつい読んじゃうんですよねぇ。んで、新しい発見があったりするとついつい読み入ってしまう。


そんなわけでついついうっかりもうしわけないけど何巻まで買ったのかも忘れていた『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を再読してしまったんですね。そしたらなんか琴線に触れた。ちょっと前に鉄道ネタでアニメになっていることも知っていたので見てみた。そしたらめっちゃ琴線に触れた。前に読んだときとは全然違う感じ。
偶然たまたまアニメが終わるところまで原作を持っていたのよかったのかもしれないです。


そう言う経緯で、すっかり読むことも買うことも忘れていたシリーズの6巻7巻8巻を、今さら入手して何のマーケティング的なイベントとも連動していないこのタイミングで感想を書くことになったわけです。




留学して壁にぶち当たった妹桐乃を兄の京介が迎えに行き、桐乃が帰ってきたところで5巻は終了していましたが、6巻はメルルとか変態兄貴群とか沙織の素顔とか外国にいるはずのライバルとか、7巻は偽デートとかコミケとか偽彼氏とか、8巻は黒猫と京介との恋模様が中心となります。恋、なのか……。なんかとても微妙な感覚。たしかに2人は自覚して「恋人」になるのだけれど、なんというか、第三者を意識した恋人って感じですよねぇ。


6巻7巻8巻の内容を書こうとすると、8巻以外はなかなかあらすじを言い表すことが難しいことに気づかされます。別の漫画の感想で頻繁に書く話ですよね。そう思ってみると、この小説の持つ構造はハヤテに似ているのかも知れません。この小説の場合、絶対に譲ることができないラストシーンが用意されているとは俺には読みとれませんでしたが、8巻で描かれた作中での黒猫はそういうエンディングが想定しているようです。そこに至るために大好きな京介と一度恋人になった上で別れる必要があった、ということなのでしょう。つらくても、その「儀式」を経なければ自分の思い描くラストシーンにたどりつくことはできない、と彼女は思い詰めたんでしょうね。
初めて読んだときは恥ずかしながら全く気づかなかったのですが、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』というシリーズもショートストーリーを非同期に組み合わせて作られているのかなぁと思います。それによって物語の舞台がリアリティを持ちやすくなるんですよねぇ。こんなに現実離れして、こういっちゃなんだけれど都合良く人物が配置されている物語なのに妙にリアリティがあるのはそれが理由か、と今さら思い当たりました。物語の主軸が見えないんですよね。わかりづらいけれど読めば読めちゃうしそれぞれのショートストーリー自体も面白いから続きも読みたくなっちゃう。




さて、話は全く変わりますが、8巻のラストで我が町松戸が物語の舞台になっています。そういえば、そもそもおれがこのシリーズを読むことになったきっかけは『俺の妹がこんなに可愛いわけがない 松戸』っていうキーワードで検索してくる人がいたからでしたねぇ。本当に松戸が舞台になったんだなぁ。
作中で松戸は黒猫からは「狂気の街(マッドシティ)」と呼ばれ、桐乃からは「街灯ないの?」と問われ、京介からは地の文で「松戸在住の人に怒られてもしらねえぞ。」と突っ込まれています。
そうだよふざけんな。街灯だって……えーっと、やっぱ怒れません申し訳ない。
住み始めてもう20年になるけど、東京から引っ越した当初の感想はそんなもんです。「星がきれい」でしたー。別の言葉で言うと暗かった……。今は改善しているけれど、夕方店が閉まるのが早くてビックリした。東京郊外のベッドタウンなんですけれど、なんとなく郊外と言うより地方都市という空気が流れていますね。8巻の松戸の記述を読んで、ああ、その通りだよなぁ、と思ってしまいました。駅からちょっと離れたところは緑が多くて静かで街灯も少なくて……。ぶっちゃけ、家から一歩でたら、というか家の目の前にそんな感じの風景が広がっています。なのでとてもイメージしやすい。
もちろん松戸は広いので全然違うところをイメージしているのかもしれませんけどね。でも、あんまり駅から離れるとまたちょっと空気が変わって来ちゃうんですよね。むしろ車前提の町並みになって開けてる感じ。
アニメで舞台になった千葉市が原作でも公式設定になったようですが、千葉市松戸市って、同じ県内にあってそんなに遠くもなく、最近はそれぞれの中心駅を結ぶ電車も走るようになりましたけれど、あまり交流が無いように思えます。これは俺の卒論だった認知距離の分野になるんですがね。
千葉市から松戸市に引っ越した黒猫みたいなケースではまた全然違うんでしょうが、常磐沿線と総武沿線って全く別の地域という感覚があるんですよ。おもしろいのは、先週総武沿線の人に聞いたら「そんな感覚は無い」と言われました。常磐沿線の人からみると、市川とか船橋とか千葉は割と遠いところなのですが総武沿線の人からみると違うみたい。と、なに断言をしているんだ、と思われる向きもあるでしょうが、まじで俺の卒論のベースとなったデータがそれなのでね(笑)。とはいえ今は交通網が整備されたのでちょっとは変わっているかも知れません。
でも、役所の手続きはたいがい松戸に出先機関があるのでできちゃう。パスポートは松戸ですからね。免許は流山だし。買い物なら柏とか東京だし。わざわざ千葉市に行く用事ってあんまりないんですよね。そこでなければできない!という遊びをするときだけですね。
おれが高校生だった頃は総武線沿線に帰る友だちともよく遊びに行きました。その時の遊び場は秋葉原とか御茶ノ水とか新橋でした。結局根本である山手線まででないと両者の接点はないんですよね。東京の学校だったから当然と言えば当然ですけれどね。だから、松戸が舞台になってもみんなで北千住のハンズに買い出し、みたいな展開にはならないんじゃないかなぁと思います。千葉市在住の人にとってはもしかすると北千住って一生行くことがない場所なのかも知れない。


なんにしても、自分の住んでいる地域が自分が気に入っている作品の作中にちょっとでも出てくるってのは不思議な感覚です。黒猫が着ているみたいな服を着ている女の子もたまーに見かけるから妙なリアリティもあるし(笑)。どっちかというと秋葉原でではなく原宿とかで見せびらかしているような気もしますが……。何となく違うのできっとなんか違うんでしょう。原宿はとても近く感じる土地柄なんですよね。黒猫が通っているという設定の学校が自分の家から歩いていけるあそこだったら笑えるなぁとか思えます。女子高だしねぇ。具体的に……というのではなく設定の一部としてはありそうな話ではある。しかし周りに何もないからなぁ。木々が生い茂る薄暗い坂道を昇って学校に行くというのは、うまく描けば映像としてはきれいかもしれないけど、たとえ使ってもらってもファンが来るなんて事もきっとないでしょう。繰り返しになりますけど、日常の生活を送っているところが物語の舞台になる可能性が有ると思うと不思議な感じですね。毎日逆向きに俺も歩いている女子高の通学路を黒猫が通ることになっているのかもしれないとか思うと意味もなく親近感はわきますね。その女子高生たちのおかげで家から駅までの最短ルートが1日で把握できたんですよねぇ。懐かしい思い出。




さて、ここから最後の感想です。よく考えたらWikipediaとかを見たら書いてあるのかも知れないけど、そう意識していなかったのでそういう記述を読んでいませんから、もしかしたらとても恥ずかしいことを書いてしまうのかも知れません……。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない』っていう作品を8巻まで通して改めて読み、アニメも一通り見たらちょっとした印象を持ったんですよ。


これって、女性が作った設定とストーリーじゃね?


と。


推理小説を読むのが好きな割にはそういうのに疎くてこれまた恥ずかしいんですが、一人称が京介だったんで書いている人も男だろうなぁと勝手に思っていたんですよね。でも、なんか違う。違和感がある。それでちょっと考えてみた。
まず一つは女の子たちが怖すぎるんですよ。ぶっちゃけ、自分の偏見を隠さずに書くと、こういうアニメとかゲームに出てくる女の子はまぁみんな見た目が可愛いのはもちろんなんですが、内面もわりと男が妄想するかわいい女の子になっていることが多いように思えるんですよね。たとえ暴力をふるったり対立をすることがあってもです。しかし、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』にはそんな雰囲気をまとっていない女の子が出てくるんですよね。男も女も出てくるキャラ出てくるキャラそろいもそろってツンデレっぽい感じなので5巻までを読んだときには気づいて無かったんだけれど怖い女の子ばっかり。
一番わかりやすいのは通報少女のあやせだなぁ。この子、怖いわ。まじ怖い。んで、桐乃も怖い。怖いというかすごく疲れそう。もちろん黒猫も怖い。でもなんとかなりそうな怖さではある。と思わせておいてどうにもならないところに追い込まれそうな怖さもある。瀬菜は別の意味で怖い(笑)。でもまぁ笑えるレベルだ。わかりやすい二面性を持つ加奈子なんかはそれほど怖くない感じだな。今のところ出てきている女の子であまり怖さを感じないのは沙織とブリジットちゃんと黒猫の妹2人ですかねぇ。
とまぁ、つらつら挙げてきましたが、強烈に怖い女の子がもう一人います。まぁ、たぶん同じような感想を持っている人はいてくれるでしょうが……。麻奈実ですね。怖いよ……。マジ怖い……。怖いけれど……。
そうなんですよね。それがちょっと不思議で……。この作品に出てくる女の子たちって怖いんだけれどどことなく憎めない、でも俺が知っているような古典的なラブコメに出てくるような女の子たちとは一線を画したような怖さを感じるんですよねぇ。
でももしかしたら現代社会で売られているギャルゲーとかエロゲーとかではそういう女の子が普通に描かれているのかも知れないです。そうだとしたら俺の抱いた違和感は全くの的はずれですね。本棚の話蒸し返しますが、ゲームはほとんど持ってないしやらないのでよくわかんないんです。
女の子が怖いという意外にもう1点女性の匂いを感じるところがありますね。それは京介がいい人すぎると言うところ。まぁ、こっちの方はこういうものなのかなぁとも思いますけれど。


実際にどうなのかはわかりませんけれど、俺はこの作品の設定やストーリーに、自分とは違う感性を感じ、その差は性差に拠る物ではないかなと推測しました。*1ただ、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の場合はそれだけでは無いように思えます。きちんと?男が妄想するような女の子のなので、もしかすると、初稿を出した後、男女混成チームが設定やプロットをブラッシュアップするような作り方をしているのかなと想像してみたりしています。




縁という物は不思議なもんです。もし地震で本棚に入っている本がぶちまけられなければ、続きを読むこともなくアニメを見るなんて事もなかった作品の長文感想を書くことになるわけですから……。そもそもがその作品を読むきっかけは、その内容ではなく、物語の舞台がどこかだったんですからね。
たぶん『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』は終わるまで読むことになると思います。もしまたアニメになったら見ると思います。状況さえ許せばね。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない』という小説と俺との間には、そういう縁がたまたまあった、ということなんでしょうね。

*1:実はこれ、トラどら!を読んだときと同じ感覚です。ところが高橋留美子作品からはこれを感じない、というより高橋留美子作品と違うところがこの感覚なんですよね。出典が少ないんですよ……