高橋留美子著 めぞん一刻



今日で、ハヤテのごとく!以外の個別の作品を論じるスタイルは
いったん終える。この先どうしても・・ということになるかもし
れないが、一応の最後を飾る作品として、高橋留美子さんの
めぞん一刻」を選択した。

めぞん一刻 (1) (ビッグコミックス)

めぞん一刻 (1) (ビッグコミックス)

めぞん一刻という漫画について語る前に、まず音無響子さんにつ
いて語ってみる。
彼女のキャラクターは、決して理想の女性としては描かれていな
い。なのにどうしてこんなにあこがれの対象となってしまうんだ
ろう。


僕がこの作品に出会ったのは、高校生から大学生にかけて。まさ
に青春時代である。その年代の青年は、年上の女性にあこがれる
という意識が多少はあると思う。


年上、美人、しかも未亡人、現実世界では決していないようなキ
ラクター設定に、今の言葉で言えば萌えていたのだと思う。




この作品はラブコメの教科書とか言われていたりするが、作中時
間の長さ、ラストシーンを見ると、五代君の成長物語として読む
こともできると思う。
ごく普通の浪人生が、すてきな管理人さんと、かなり迷惑だが気
がいい住民達とともに年月を経て成長していく物語である。


音無響子さんが未亡人であり、失った夫、惣一郎さんの顔を最後
まで描かないと言う方法は非常に秀逸である。それによって、五
代君にとって「見えない敵」ということを、ことさら強調してい
る。
恋敵として、三鷹さんというこれもありえないようなキャラク
ーを創造しているが、この物語のラブコメとしての幹は、夫の死
によって時間が止まった(主題歌の歌詞を借りれば「錆びた時計
と泣い」ていた)響子さんの時間を、どうやって動かしていくか
というところである。


五代君の成長によって時計が動いたのか、あるいは現実の時の流
れが錆を落としたのか、僕はその両方であると思う。
漫画の時間と現実の時間がほぼ同時に流れていることにより、臨
場感をもってこの物語を読むことができる。


物語論からははずれるが、この漫画で一カ所どうしても語ってお
きたいことがある。
それは、11巻(オリジナルの単行本)21ページから22ペー
ジにかけての流れである。
ここでの響子さんの表情の動き。これは漫画という表現方法以外
では成立しないのではないか。
アニメや映画の方がよりわかりやすい表現がとれるであろう。し
かしそれを静止画で見せることによって、その間の人物の心の動
きを、読者それぞれが補完することができる。
高橋留美子さんの画力に負うところが大きい表現方法ではあると
おもう。
しかし、この2ページで、僕は漫画という表現方法の可能性に気
づき、いずれ小説以上の文化的価値を持つようになるのではない
かと感じた。2005-09-14の日記での決意表明で触れた

漫画がこのまま進化すれば今にノーベル文学賞でも取れるんじゃねーかな

っていう発想は、このページを見たところが原点となっている。
他の表現方法ではできないことができる表現手法、それが総合芸
術漫画なのだ。


最初にも述べたが、今日で個別作品を論じることはいったん終了
する。この一連のシリーズで気をつけていたことを種明かしする

  • 論じる対象となる作品以外の作品については、本来論じるべきハヤテのごとく!も例外とせず、触れずに論じる
  • 作者については論じない

である。
読んで頂けるとすぐにわかるが、このもくろみは見事に失敗して
いる。最初の発想が「他に類を見ない味付けをしよう!という料
理下手な人が最初に陥る間違い」のようなものなので、うまくい
くはずがないのだ。


僕のような素人が各種評論を読んで不満に感じるのは、自分が読
んだことのない作品を引き合いに出して論じられると、自分の知
識のなさが浮き彫りにされて惨めな気分になるということである。
だからここを読む人にそういう気分になって欲しくない、そうい
う思いで書き進めた。
でも、特にうる星やつらの回はひどい。その作品内だけで論じる
ってことがいかに難しいかを痛感して、途中でそれを放棄してし
まった。それ以外の回でも散見されると思うが、それは筆者自身
意識していないので、より始末が悪い。


作者と作品の関係を論じるとそれはそれでまた別の評論になって
しまうなという思いがあった。それでなくても、いい大人が作品
と現実世界の区別がつかないようになっているんで、そういう論
調になることを避けるためにも回避したいと思った。(が無理だ
った・・・)


これからは、申し訳ないけれど思う存分制約なしに書くつもりで
ある。


次回からは、思いがけず「本物」である畑健二郎さんにWebサン
デーで書かれてしまって、間が悪いなぁとは思っているのだけれ
ど、漫画という表現方法がもつ現実社会での制約、逆にその制約
がもたらす効果について2回か3回に分けて書くことになると思
う。

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