『涼宮ハルヒの退屈』 罠にはまる快感

涼宮ハルヒの退屈 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの退屈 (角川スニーカー文庫)

シリーズ三作目『涼宮ハルヒの退屈』を読みました。
まずは、『涼宮ハルヒの憂鬱』『涼宮ハルヒの溜息』を読んだ時点で俺がとらえているこのシリーズの世界観をご紹介しておきます。

レベル5   作中作
レベル4   この小説でえがかれている世界
レベル3   考えていることを現実にする力を持つ少女、涼宮ハルヒの世界
レベル2   考えていることを現実にする力を持つ少女、涼宮ハルヒを想像した何者かがいる世界
レベル1   作者や俺たちが住む現実世界



この世界観をベースとして出版順にこのシリーズを読んでいきます。


さて、『涼宮ハルヒの退屈』には短編、中編が4作収録されています。まずはそれぞれの小説についての普通の感想を書いていこうと思います。

涼宮ハルヒの退屈

表題作です。ヒロイン涼宮ハルヒの思いつきで涼宮ハルヒと愉快な仲間たち(主人公にとっては不本意な表現)は野球大会に出場することになります。運動万能のハルヒはともかく、他のメンバーはとても試合に勝てるような能力を持っていない状態だ。
そもそも野球大会にこんなに簡単に参加できるってのがねぇ。俺もなぜか家から二時間かかる大田区5部にメンバー登録されているけれど、ユニフォームがどうこう、ヘルメットがどうこう、ストッキングがどうの、ベルトがどうの、キャッチャーの防具が、メンバーの住所が・・・などなどうるさいです。100チームとかのトーナメントだからなんでしょうか??
閑話休題
とにかく、ハルヒが勝手に作ったサークル、SOS団のメンバーは5人、ヒロインハルヒ、主人公キョン朝比奈みくる長門有希古泉一樹だけでは人の数がそもそも足りないわけで、キョンの友人、谷口、国木田、さらにみくるの友人鶴屋さん、そしてもう一人、キョンの妹(小学5年生)というとんでもない9人で試合をすることになったわけだ。
ハルヒは打っても投げても前回優勝のチームに引けを取らない活躍をします。しかし、それ以外のメンバーは当然どうにもなりません。キョンなどはむしろさっさと負けたい、間違いなく負けるために自分の妹を連れてきたわけだから。
ところが想定外の事態が想定通りに起こる。ハルヒが憂鬱になり始めた。彼女は、自分自身ではそのことを知らないけれど、自分の思ったことを現実にする力を持っています。そして、現実をつまらないと判定すると、新しい別の現実世界を作ってしまう。そしてその新しく作られる別の現実世界に行けるのはハルヒによって選ばれたキョンだけ。まったくやっかいな話である。
その事実はSOS団の団員は全員知っていて、キョン意外はそれぞれの立場、みくるは未来人、有希は宇宙人、一樹は超能力者の立場でハルヒを見守っている。
キョン以外はなんとしてでもハルヒが今の現実世界に退屈しないように気を遣っている。そして、やむをえず、有希がその力を使ってハルヒのチームSOS団を勝利に導く。物語の終わり、ご機嫌なハルヒが今度はサッカー大会かアメリカンフットボール大会に参加しようという提案をしてお話は終わる。


ホームランを打ちまくるチームメイトを見て無邪気に喜ぶハルヒ、ホームランを打っても疑問を感じないその他のチームメイトという設定に無理を感じました。

笹の葉ラプソディ

普段めちゃめちゃなことをするくせに、七夕の願い事などという古風なことにこだわるハルヒ。勝手に持ってきた笹に「世界が私を中心に回るようにせよ」「地球の自転を逆回転にして欲しい」というまったくわけのわからない願い事をするわけだが、古風なことには変わりはない。
なんでも、ベガとアルタイルまではそれぞれ25光年16光年離れているので25年後、16年後に実現したいことをお願いするといいそうである。ちなみにどっちがどっちの距離かは天文にはまるで疎いので俺にはわからん。
しかし、ハルヒには思いを現実に変える力がある。25年後か16年後か知らんけど地球が逆回転をはじめるんじゃなかろうか。不安になる。
そんなハルヒが笹の葉を飾った後おとなしくなる。不気味である。そもそもSOS団を作ることを思いつく前は、誰とも話さず笑顔も見せることがない少女だったが、それともまた違う表情だ。
そこでキョンはみくるに話があることを告げられる。テンションが下がったハルヒと一樹が帰った後、有希からもメッセージが託される。


未来人のみくると二人きりになったキョンは、これから一緒に過去に遡ることを告げられる。みくるに殴られわけのわからないうちにタイムトリップしたキョン。彼は三年前の七月七日、つまり七夕にいた。なぜかすぐにみくるは眠りこけてしまう。そこにさらに未来からやってきた大きい朝比奈みくるが登場する。彼女は、近くの学校の校門前にある人物がやろうとしていることを手伝って欲しいと言った。
その学校は涼宮ハルヒの出身中学、東中学校だった。そして今は三年前。現在高校一年生のハルヒはそのとき中学一年生である。校門をよじのぼって学校に進入しようとしている不審人物に声をかけると、案の定、それはハルヒだった。
ハルヒは校庭に奇怪な絵を描き始める。大きい朝比奈さんに「手伝え」と言われているのでやむをえずキョンはそれを手伝う、というかキョンが描かされている。三才差があるのに力関係はハルヒの方が上である。
作業をしがてら、ハルヒキョンは聞かれる。
ハルヒ「宇宙人はいると思うか」
キョン「いるんじゃねーの」
ハルヒ「未来人は?」
キョン「いてもおかしくはない」
ハルヒ「超能力者は?」
キョン「たくさんいる」
ハルヒ異世界人は?」
キョン「まだ知り合ってない」
ハルヒに制服から通っている学校が北高であることを悟られ名前を聞かれるキョン。ここでかれは偽名を使う。「ジョン・スミス」


ハルヒとの邂逅はこれで終わりだった。
この後、帰るための道具を無くした小さいみくるが取り乱したり、三年後に帰るために有希のマンションを訪ねたら三年ごとまるで同じ状態で住んでいたり、そこで三年後に無事戻れたりなどということがある。
有希が別れ際に託した紙には、三年前にハルヒが校庭に描いた図形が書かれていた。宇宙人にはそれが「私は、ここにいる」と読めるらしい。


タイムパラドックスとかいろいろと突っ込みどころが多い話。一番の突っ込みどころは、三年後に戻ったキョンとみくるは元の世界にいるのかどうかわからないってところです。普通に考えれば別の世界だろうね。そのあたりは作中でも登場人物が突っ込んでいます。
ここでハルヒが未来のキョンに出会い、キョンが良からぬことを吹き込んだことが、この作品で描かれている世界構築の秘密に関わるところなんでしょうね。

ミステリックサイン

七夕の時のしおらしいハルヒはやはり長続きしなかった。元気になったハルヒはまたキョンに無理難題を押しつけるようになった。
どうやらコンピュータ研から奪い取ったPCを使って作ったWebサイトのアクセス数がのびないことにおかんむりらしい。
その憂慮すべき事態を解決するためにハルヒはSOS団のエンブレムという素敵な画像を作ってきやがった。それをWebのトップページにアップロードしろとキョンに強要する。画像作れるくらいならアップロードくらい簡単にできるだろうに・・・
しばらくして、SOS団に相談を求める生徒がやってきます。涼宮ハルヒが勝手に作ったサークルをそれらしいものにして学校から公認されるように、何でも相談を受け付けるサークルであるということにしたキョンの知恵が災いしました。結局学校から許可は下りるはずも無いけれど・・・。
それはともかく、相談者が言うには彼氏が突然消えてしまったとのこと。その彼氏とはPCを奪われたコンピュータ研の部長。不思議なことが好きなハルヒは早速部長の自宅に探索に向かう。
そこでは何の手がかりも事実も得られなかったわけだけど、ハルヒ以外の4人は再度集結して有希のちからで別の空間に移動し部長を救出する。
なんでもハルヒの作った画像は436TBの情報量があり、それを見ると別のところにとばされてしまうらしい。
普通の日記に書こうとしていたんだけど、用意されている一番大きい単位は「ヨタ」らしい。そのうち500ヨタバイトのHDDとか言う言葉がでてくるんだろうか。ギガテラエクサに比べて日本語的に語呂がいまいちだ。ヨタの前にゼタがある。それはかっこいいし大きそうに感じる言葉かも。
とにかく、数十年後には436テラバイトって言う設定を見て時代を感じるのかもしれない。なんだその程度かと。
この話ではハルヒはあまり活躍をしない。別世界から部長を救い出すきっかけになったのは有希、どうやら危険な画像を書き換えたのも有希。有希の力は無尽蔵のようですだ。


いまいちな話だと思いました。キョンハルヒの妙な緊迫感と連帯感の話の方が好きですね。なんのかんのいって俺はぬるいラブコメ結構好きなんだなと思いましたよ・・・

孤島症候群

夏合宿と称し、一樹の親戚が持っている孤島に遊びに行くSOS団面々。そこでおこる事件。ミステリー仕立ての話である。
推理物のネタバレはどんな物であっても避けるのが礼儀なのでこれ以上筋の紹介はしない。
アニメでも触れられていたが、ハルヒに対するキョンの信頼がこの話の主軸となっている。


落ちはわかってしまったけれどそれなりに面白い話。なるほどこのシリーズの設定でミステリー仕立てってのはやっかいですね。




とまぁここまで普通の感想を書いてみたわけだが、涼宮ハルヒシリーズの場合この感想文では感想文にならない。この読み方ではレベル4の感想にしかなっていないからだ。レベル3のハルヒの心、さらにそれを想像しているレベル2の何者かの心を読みとらなければ感想文として不十分である。
そういう観点から各作品をもう一度振り返ってみる。


涼宮ハルヒの退屈
この作品のポイントは鶴屋さんである。彼女はもう一人のハルヒだ。バッティングが難しいことを楽しみ、みくるのチアガール姿を楽しむ。彼女は自分の思い通りにならないことそれ自体を楽しんでいる。
彼女の存在が2006/7/8に書いた俺の推測するシリーズエンディングの元となっている。


笹の葉ラプソディ
いくつものレベル4の世界にそれぞれキョンやみくるや有希や一樹、さらにはキョンの友達、妹、鶴屋さんがいるって言うことなんだろう。もちろんハルヒも。しかしハルヒは常にハルヒである。それがハルヒアイデンティティハルヒ以外は別のレベル4の世界でも同じ役割を持っていることもあるが違う役割を持っていることもあるのだろう。


ミステリックサイン
そういう観点での感想は難しい。ハルヒが持つレベル4の世界での恐ろしい力をまた目の当たりにしたということくらいか。


孤島症候群
レベル4の人間からするとハルヒのお守りは大変だというお話。でもその大変なレベル4の皆様もみんなレベル3ハルヒが創造している。このあたりの構造がややこしくて脳みそが煮えそうになるところ。


総論
娯楽小説として楽しく読みました。いろいろ突っ込みどころもありますが、それを突っ込んでしまうと作者に負けたことになるというとんでもない構造をもつ作品シリーズなので難しいです。(笑)
普通に感想を書いてしまうと作者の罠にはまったことになる。しかし、罠にはまるという快感も捨てがたい、そんな当たり前のことを思い出しました。
とりあえず、この一冊を読んだ時点では、当初掲げた涼宮ハルヒシリーズの世界観は訂正しないことにします。

レベル5   作中作
レベル4   この小説でえがかれている世界
レベル3   考えていることを現実にする力を持つ少女、涼宮ハルヒの世界
レベル2   考えていることを現実にする力を持つ少女、涼宮ハルヒを想像した何者かがいる世界
レベル1   作者や俺たちが住む現実世界



また、このシリーズのエンディング予想にも変化はありません。今のところ。


次はいよいよ『涼宮ハルヒの消失』です。評判がいいみたいなので楽しみです。


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記事カテゴリー 涼宮ハルヒシリーズ





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