新井素子著『…‥絶句』暫定版 悪いこといわないから読んでみろって。

…絶句〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

…絶句〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

…絶句〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

…絶句〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

アマゾンに表紙画像がないようなのでスキャンして貼ります。クリックするとでかくなります。絵を見て「ああ」と思う人は同じ世代かな?
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いずれ読み終わってからもう一度同じ事を書くような気もしますがどうしても今日書きたい。
この小説を読んだことない人、特にライトノベルが好きな人は読むといいことがあると思います。いや、私自身がライトノベルに分類される作品は『涼宮ハルヒシリーズ』しか読んでないのに偉そうですが…。
この小説が出版されたのは昭和50年代です。私が読んだのもその頃。当時のオタクは大概読んでいるんじゃないかな?ええ、オタク向けですよ。どのあたりがオタク向けかというと作中の二人称が「君」でも「あなた」でも「おまえ」でもなく「お宅」(笑)。むしろ今は使われていない表現ですよね。
当時はライトノベルという言葉はありませんでしたが、体裁は今のライトノベルとほぼ同じです。表紙はイラスト、作中にも挿絵が多数。むしろ『涼宮ハルヒシリーズ』より挿絵多いんじゃないかな?『…‥絶句』の表紙と挿絵は、あの、吾妻ひでおさんです。たぶん当時キャラ萌えできる人は萌えていたんじゃないですかね。俺はその頃からそういう読み方ができなかった…。


まだ途中で、しかも途中まで読んだだけでも記憶とは展開が違うので基本設定と導入部分だけ紹介しましょう。


このサイトを読んでいる方にはご自身で創作(2次創作を含む)をしている方も多いと思います。もし、自分が書いたキャラクターが突然実体化したら…。どうなるでしょうか?そして、彼、彼女らは自分が与えた設定や人間関係を持っていたら…。どうなるでしょうか?
そういう話です。
主人公は「新井素子」という小説家を目指す女子大生です。親切なことに、著者である「新井素子氏」と作中人物である「新井素子」とは違うということが作中で語られています。今だったら読者はすんなり受け入れられるだろうからこういう断り書き的な所は不要なのかも。でもそのやりとりも面白いんだよなぁ。
それはともかくとして、作中の「新井素子」は世界を作る力を手に入れてしまったわけです。しかも自分が創造した登場人物はみんなめちゃめちゃな力を持っている。ということは主人公はさらにめちゃめちゃな力を持つ人物や物を生み出すことができるということになります。当然悪の組織とかに目を付けられるわけです!(笑)。
バトル有り、萌え有り、女装少年有り!とまぁどっかで聞いたことがあるような基本設定が並びますよ。


途中まで読み返してわかったことがあります。私はこの作品、というか新井素子作品からものすごく影響を受けている。この小説家の作品を読んだのは筒井康隆の洗礼を浴びる前でした。それ以前に読んだ本の影響は筒井康隆によって洗い流されていたような気がしていたんですがそれは違った。
一番顕著なのはこの文体ですね。新井素子作品に出会う前から意識はしていたのですが、実体化したのをみたのは新井素子作品が初めてだと思います。その後『文学部唯野教授』も読みましたけれど影響力は新井素子作品の方がたぶん強いと思います。
異様な文体ですよ、これは。なのに読みやすい。今なら言えるけれど、もし樋口一葉が今の時代を生きていたらこんな感じだったのかもね(笑)。
新井素子氏は女性なので当然*1全く文体は違いますけれど、自分の中ではこの日記のメイン文体は新井素子氏の文体を意識してそれに近づこうとしているけれど近づくことすらできていないように思ってます。


この小説、世間一般でものすごく高い評価を受けているかというとそんなこともないらしいです。でも、私の中での評価は高い、というよりものすごく影響を受けていました。出版されてから20年以上が経っています。入手するのも難しいのかも知れません。それでも読んでみる価値はあると思います。

*1:と書いてから何が当然かは読者にはわからないのかなと思ったりして