芥川龍之介著『地獄変』

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

全く読んだ記憶がありませんでした。そして、読んで良かったと思いました。
この小説は、ある狂気にとらわれた絵師が自分の作品「地獄変」を書くために、同じく狂気にとらわれた主にとある許されないお願いをしてしまうというのがあらすじになると思います。
深い話ですよねぇ…。今の時代では倫理的に許されないけれど、当時は許されたのかも知れない。現代でも程度の差こそあれ同じようなことは日常的に行われているんじゃないかとさえ思えてしまいます。芸術家としての良秀と人間としての良秀はどちらも一種の狂気に支配された人間だと読みとりました。そしてその狂気がぶつかり合った瞬間奇跡が生まれた、そういう話だと理解することも可能です。
彼の最後の行動は人間としての良心なのか?あるいはもう一つの狂気が発現しただけなのか…。それをどう捉えるかによって感想は大きく変わると思います。私は後者なのではないかなと一読して思ったのですが他の人が同じ感想を持つとは思っていません。




以下、余談です。


この作品を読んで、現代を生きる二人の創作者が目に浮かびました。
一人は小説家、筒井康隆です。筒井さんの作品には狂気に支配された登場人物が多数出てきます。他の芥川作品を読んだ時にも感じたんですが、筒井康隆芥川龍之介を受け継いでいる作家なのではないかとさえ思えてきています。そんな筒井さんは、芥川の名前ではなく、もう一人の作家の名前が冠された大きな文学賞に挑戦し続けて敗れ、結局は芥川さんの名前を持つ文学賞に対向するために創設された賞の審査委員になっちゃうんだからわからないものです。
もう一人は漫画家、藤田和日郎です。あの世界に地獄変という小説はよく似ています。芥川作品の世界に似ていると言ってもいいと思います。最近発表された「邪眼は月輪に飛ぶ」は地獄変のあるエピソードから着想を得たんじゃないかなぁとも思いました。