読書感想文 竹宮ゆゆこ著『とらドラ!』 逢坂大河について



手乗りタイガーの前では、人は皆平等である。
私はそんなことを思っています。







とらドラ!』のメインヒロイン、逢坂大河。彼女には強烈な属性が作者から与えられています。
暴力的な性格。破滅的なドジ。意外と女の子女の子した嗜好。そして、その背後にある強烈な孤独。
しかし、それらは大河がある役割を果たすために与えられた属性なのではないかないう印象を私は持っています。


結論を急がず順を追って書いていきましょう。
まず、主人公の高須竜児。目つきが悪いだけで性格はおとなしく家事が得意で大好きというおかしな少年ですが、彼はその外見によって周りから誤解されることが多く悩んでいました。しかし、大河と同じくラスになり、大河に圧倒されることをきっかけにして誤解が意外と早く解けました。
続いて、川嶋亜美。彼女のことはもう言うまでもないでしょう。
高校生ながらモデルをやっていて大人の世界で身につけた処世術に隠された本来持っている底意地の悪さが大河の前では赤裸々に明かされます。
そして、もう一人。生徒会長狩野すみれ。男の子からも女の子からも兄貴と慕われる漢気のある女の子です。彼女もまた大河の襲撃によって、決して超人ではなく一人の高校生としての素顔を見せます。


もうおわかりでしょうね。


逢坂大河の役割は「仮面を剥ぐ女の子」なのではないかと私は考えています。
大河の前ではみんななぜか自分をさらけ出します。そしてさらけ出すことによって「救われる」のです。大河の暴力的な性格も、圧倒的な力も、愛くるしい外観も、女の子らしい嗜好も、すべてそのために与えられた属性なのではないかと私は考えているのですよ。


ちょっとまて。大事なことが抜けていないか?そうおっしゃるのはごもっともです。そうなんですよ。大河の前でも仮面を脱がない、脱がされることがない人間がいる。
天然2人、櫛枝実乃梨と北村祐作です。


祐作は大河の思い人であり、大河自身が祐作の前では仮面をかぶってしまうので論外でした。そして実乃梨は、大河の前では普段以上に自分を隠そうと努力をしていました。それは、自分の気持ちを大河に悟られることを恐れていたから……。
祐作の仮面はまだ完全には剥がれていないのかも知れない。しかし、半ば意識を失っていたとはいえ、大河が祐作に対して誰にも明かしていない本心を伝えようとしたことから考えると、祐作と大河は今までの仮面同士のつきあいから1歩ふみだすことになるのだろうなと想像できます。
そして、実乃梨はもう一人の大河によって仮面が剥がされます。もう一人の大河、それは、大河と同じような孤独の中を生きている(と思いこんでいる)川嶋亜美です。亜美から見ると、大河を巡る竜児と実乃梨の対応がどうしても許せなかったんだろうなと思うんですよね。家族ごっこが。みんな自分の本心を隠して仲良くしている。そんな3人のことがうらやましくもあり、また、その関係の危うさに誰よりも早く気がついていた。だからこそ、自分が悪役になることはわかっていても、実乃梨の仮面を剥がそうとした。
そう。自分が大河に剥がしてもらい楽になったように、今度は亜美が実乃梨の仮面を剥がしてあげようとしているのです。


大河をきっかけにして大河の周りの子供たちは、本当の自分を見いだします。そして、その本当の自分と向き合ってくれる真の友人を見いだすことができる。


手乗りタイガーの前では人は皆、自分をさらし、平等になる。