読書感想文 島田荘司著『犬坊里美の冒険』 新ジャンル 萌え社会派本格推理小説 アニメ化希望

えーっと……。何をどう書けば良いんでしょうか。ネタバレ御法度の推理小説で感想が長くなりそうな予感がするのは珍しいことです。

犬坊里美の冒険 (カッパ・ノベルス)

犬坊里美の冒険 (カッパ・ノベルス)



「新ジャンル」とか書きましたが、出版されたのはずいぶん前のことみたいなので今さら感は漂いますね。俺が読んだのが昨日だってだけの話です。
面白かったです。とても。


まずは、一番簡単にすみそうな社会派要素から触れます。
島田荘司氏は、ある考え方を持っていらっしゃって、最近は(といってももう10年以上はでしょうね)その主張に沿った内容を作中で描くことが増えています。そして、その考え方自体は私自身の考え方とは相容れない部分があることは否定できません。
しかし、それでも面白いです。
現実を下敷きにしないと決して成り立たない推理小説というジャンルとはいえいちおうは架空の世界の架空の物語なのですが、その中で作者の持つ主張が極めて自然に展開されています。この力量はすごいですよ。


続いて、萌え要素ですかね。
犬坊里美ちゃんも大きくなりましたぁ……。この作品の主人公でありながらなぜか場違い感を漂わせる司法修習生の女の子になりました。主人公が場違いってのはあの漫画に似ているな。まぁそれは関係ない話です。
パンツを見せろと迫られて怒る里美ちゃん、かわいい。ごめん、どう読んでも変質者にしか見えませんね。
そんなかわいい里美ちゃんが最後までその可愛さを維持しつつ謎を解いていきます。これで萌えられない人だっているとは思うけれど、萌える属性を持つ人は確実にいるはず。
最後の最後まで場違い。でも、そこがかわいいんだ。しかも、場違いでありながら主人公でもあり続けますから。


最後に本格要素ですね。
実は、この小説、途中でメイントリックにあたりがつきました。「こういうことかなぁ……」って思えた。んで当たった。もうちっと具体的に言うと新書版のP230近辺でそう思いました。そうそう。だから文庫版でてるのにアマゾンのリンク新書に貼った。なんとなく新書っていう言い方するけれどノベルズ版って言った方がきっと正確なんだよね。まぁいいや。
とにかく、本格推理なんです。結末で読者に知らされていない驚愕の事実は何もない。具体的には書かれていなくても、重要な事柄を示唆する伏線はすべて貼られています。
むろん、メイントリックについてもそうです。だからわかった。フェアな本格推理小説です。しかも、メイントリックで産み出されるのは不可能状況からの死体消失です。
正直、リアリティという意味では多少無理はあると思いますが、そんなことには目をつぶっても良いと私は思いますね。


前にも何度か書いてますが、島田荘司氏は謎の見せ方が本当にうまい。そしてそれを伝説や神話と絡めるやり方も一種様式美とすら思えてきます。島田氏の直系というと、いわゆる「新本格」の諸氏よりも京極夏彦氏なのではないかなぁと私は思うんですよね。
これも何度も書いていますが、島田氏が謎を見せて、京極氏が解決する小説があったら最強の一冊になるんじゃないかなぁと夢想します。




最初から最後まで里美ちゃんを愛でながら読んでもそれなりに楽しめると思います。社会派推理小説として読んでも考えさせられるものがあるとも思います。さらに、何よりしっかりした本格推理小説です。
日本の推理小説をまだ読んだことがなく、ライトノベルは読み慣れている人がもしいたら、入門用の作品としては最適ではないでしょうか。


なにより面白いですから。それが一番ですよ。


感想サブタイトルにも書きましたが、この作品を映像化するとしたらドラマではなくアニメだな。挿絵のような本格推理風の絵柄ではなく、美男美女続出の今風の絵柄でやったら面白いんじゃないかなぁ。