L20ET あるいはスカイラインジャパン −未成熟な技術にこそ趣味性が宿る






この日記を書き始めてもうすぐ丸5年が経とうとしています。そう考えると長いですね。良く続きましたぁ。
日記を書き始める時に、「これだけは書こう!」と心に決めていたネタがいくつかありました。そのほとんどは開始後半年以内にネタ切れで使ってしまいました。今もつたないですが当時はもっとつたなかった文章でそれらのネタを使ってしまったことに若干の後悔の念は禁じ得ません。


しかし、まだ手をつけていなかったネタがあるのです。それがこの記事、「L20ET あるいはスカイラインジャパン」です。




前に書いた4G61NA(三菱直列4気筒1.6lエンジン)についてはネット上にもほとんど情報がありませんでしたが、L20ETについてはそれなりに情報もあるようです。そして、スカイラインジャパン(C210、C211系)についてもオールドファンが少なからず存在しています。
私は、学生から社会人になるまでの極めて短い時間をL20ETを積んだスカイラインジャパン(C211)GT-EXと過ごしました。そして、その濃密な時間のことを未だに忘れることができません。


とにかく、すごいんですよ!まじすごい!シートバックに背中が押しつけられる加速感ってのを普通の車で味わったのはあれが最初で最後。強烈でした。
おぼろげな記憶ですが、アクセルを踏んで3500rpmあたりを越えると「どっかーーーーん」って来るんですよ。「どっかーーーーん」としか表現できない。それを経験している時、ドライバーの私は必死なのですが、助手席や後席から計器を見ていた友人に言わせると「タコメーターの針がありえない速さで動く」と言ってました。それも納得の加速です。
しかし、このエンジン、それだけではありません。
下がね。無いの。もうね。かなりつらい。発信する時クラッチを合わせるのに気を使いまくりです。さらに、これは個体差だったのかもしれないけどね、1速と2速が入りづらくてねぇ。いつのまにかダブルクラッチの技を身につけました(笑)。ああいうドライビングテクニックって経験して覚えるのが一番ですよね。でもまぁ私のレベルだとね……。
未だに癖になってて必要ないのにダブルクラッチやっちゃうことがあります。
しかししかし、このエンジン、それだけでもないのですよ。
ターボが強烈にかかるエリア、だいたい5000rpmくらいかなぁ、そこを抜けるとね、直6になるのよ。直6。脳みそがとろけるような音がするんですよね。圧倒的な加速感はそこにはないんですがそのエリアが一番好きでしたねぇ。気持ちいいんだもん。


当時の車なのでさほど燃費は良くありません。でも、自分でコントロールすることができたのです。アクセル踏みまくってガンガンに走ると5Km/lを切りました(笑)。しかし、細心の注意を払ってアクセルコントロールをして運転をすると10Km/lを越えたのですよ。些細なことですが、自分は車を操っているんだなぁと言う喜びを感じました。


そういう車ですがいろいろなトラブルがありました。アクセルペダルが突然取れるとか、マフラーが折れるとか、ラジエーターから煙り吐くとか……。結局ハンドルを切るとオイルが吹き出るトラブルを直すのにかなり(当時の私の基準で)お金がかかるという問題により手放してしまいました。今なら違う判断をしていたと思います。当時だって……もうちょっと考えれば良かった……。


いろいろ問題はありましたけれど、今まで乗った車の中で、今まで回したエンジンの中で一番思い出深いもの、それがL20ETあるいはスカイラインジャパンです。




さて、ここで冒頭に戻ります。
俺の大好きなジャパン、そしてL20ET。今の時代世に出たらどういう評価をされたでしょうね?もしかすると「欠陥車」扱いされたんじゃ無かろうかとすら思うのですよ。
自動車というのが、人や物を載せてある場所からある場所まで動く機械であると定義するのなら、動かすのにいらんコツが要ったり、ドライバーの意図とは違う動きをしたりする。いわば、「未成熟な技術」が産みだした産物なのではないかなぁと思うのですよ。当然当時の技術者はそんなことは思ってもいないでしょう。自分たちの技術に絶対の自信を持っていたのでしょう。しかし、冷静に考えると、今世の中で動いている車、売られている車のほとんどは、スカイラインジャパンより簡単に動かせて、かつ高性能なんですよ。それは絶対的な事実。なによりも10年以上へたらないで動くんですからね。それは実はすごいことなんですよね。当時の車から考えるとありえません。


プリウスを自分で運転したことはありませんが、初代プリウスに同乗したり、信頼できる関係者*1に話を聞いたりもしました。
その中で出てきたのが「難しいのは回生ブレーキ」という話だったのですよ。今回の問題も回生がらみだろうなぁ、鉄道でいう回生失効の話なんだろうなぁと予測していたのですがどうやらそれで正解だったみたいですねぇ。


最近の通勤車両は回生ブレーキが付いているのが多いので、経験がある人も多いと思います。一瞬ブレーキが抜けてその後強烈な制動がかかることがありますよね。それが回生失効とそのリカバリーで起こる現象らしいです。
鉄道の場合はそれでいいんですよね。わりと簡単。なぜなら、一定の区間(閉塞)には1台の電車しか走っていないことを前提としたシステムですから。何十メートルか空走して、その後きっついブレーキをかけても、まぁ乗り心地は悪くなるけれどぶつかることはありません。鉄道のシステムってのは基本事故が起こらないように作られているのですよ。それでも起こってしまうから事故なんですけれど……。
ところが、自動車の場合はそうはいかない。車間距離を取れとか言われても実際に高速道路を走るとそれを取らずに走っている車の多いこと。一般道でも、読み違えて加速をしているタイミングで突然前の信号が黄色に変わるなんて事は良くあります。緊急回避のためにハンドルを切ったりあろうことかアクセルを踏んだりしなければならないことだってあります。


そして、何より、ドライバーの技能もさまざまなんですよね。


プリウスの件、問題のある設定をした人の気持ちが何となくわかる気がします。
意図よりも制動力が得られなければ、人は本能的にブレーキを踏み増す。
おそらく多くの場合それは正しいのではないかなぁと思います。しかしそうではないケースがあり得たと言うことです。


制御システムの入れ替えで、回生ブレーキが失効する場合には他のブレーキがサポートするようなシステムになったのでしょう。しかし、それもまた、人によっては「不自然」と感じる動きをするのかもしれません。




プリウスに限らず今の車は「自分が操っているという喜び」を感じづらくなっているように思えます。多くの自動車は、システムが安全性を担保し、ドライバーはその守られた空間で必要な操作だけを行って、ある地点からある地点に移動する、それだけの機械になってしまっているのではないかという危惧を抱いています。
そして、それも車が売れない、特に若者に車が売れない理由の一つかなと思っています。
もちろん、最大の理由は、前に書いたように、そして今日も書いたように、10年くらい平気で壊れずに動くようになったという品質の工場にあるだろうなとは思います。




たったの20数年前。車は難しかった。壊れやすかった。まともに動かなかった。今にして思うと、乗っている人にとっても、そばを歩く人たちにとっても危険な機械だった。
でも、とても、とっても、楽しかった……。愛おしかった………。



*1:注:あくまでも私が信頼しているという意味合いです。この記事の読者が信頼するかは別問題。