読書感想文 スコット・パタースン著『ザ・クオンツ』 現実と非現実のあいだ

ザ・クオンツ  世界経済を破壊した天才たち

ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち



仕事がらみで手に取った本です。ずいぶん前にこんな感想文を書きましたが、今日感想を書くこの本を買うときに近くにあったからあんな流行り物に手を出したっていう裏話があります(笑)。
ってことは、この本を読んでからずいぶんと時間が経ったと言うことですね。「もしドラ」よりも先に読んだわけですからねぇ。


『ザ・クオンツ』という本を読んでちと思うところがあって感想を書くのを先延ばしにしていました。自分の中で消化してから書いた方がいいかなぁと思いましたので。
結局、この本の感想というくくりで全てを書くことはあまりにもわかりづらすぎるので2本に分けて書くことにしました。
この記事では、主に『ザ・クオンツ』本編に関連する感想を書き、別の記事ではそこから連想したことを中心に書こうと考えています。




『ザ・クオンツ』。私は金融業界に身を置いているわけではないので、この本をあくまでも読み物として楽しみました。面白かったです。お薦めできます。
ヘッジファンドはどのようにして産まれたのか?この本の中でその理由が明かされています。
ギャンブルでの必勝法を編み出した天才的数学者がラスベガスを追われ、最大の鉄火場である金融市場で自分の必勝法を実際に試したというのがヘッジファンドであると。
それは理由の一つに過ぎません。国を相手に勝負を挑むようなヘッジファンドはまた別の存在です。しかし、この本によると、そういった大勝負をしかけるようなヘッジファンドは、天才たちから見るとむしろ過去の遺物になるようです。


彼らの理論の本質が理解できるわけもありませんが、大枠を見るとこのような理屈になります。
市場で取引される「もの」の価値は理論的に、つまり数式によって、正しい価格を導き出すことができる。しかし、実際にはその正しい価格で取引されていない。だから、正しい価格に収束する方向性で取引をすれば必ず儲かる。


そう。必ずなのですよね。実際にはどうかはわからないのですが、この本を読む限り、彼らは「必ず」儲かる方法があると信じているように思えます。その必ず儲かる方法を産み出すために必要な、正確にものの価値を算出することができる方法が記述された数式を追い求めています。その数式が「The truth」となるのでしょう。


しかし、一度その数式を手に入れても無尽蔵にお金を儲けることができるわけではないようです。この話、私は量子論を思い浮かべながら読みました。
正確にものの価値を算出することができたとしても、自分自身がそこに何らかの形で、売りでも買いでもどちらでも、介入してしまうと、その数式に狂いが生じるという問題があります。
量子の振る舞いを観察することによって、その振る舞いが変わってしまうという話に通じるように思えたのです。
結局、「The truth」を見つけ出したとしても、その主体に大きな影響を与えるような取引はできないのではなかろうか?つまり、こじんまりと(と言っても一般人から見たら莫大な金額でしょうけれどね)儲けることはできても、ある一定の限度は存在するのでは無かろうか?そんなことを思いました。


ところで、この本を読んで、経済ニュースなどで耳にすることが多かった「質への逃避」という言葉の意味を初めて理解することができました。理解した気になったと書いた方が正確でしょうが。ヘッジファンドが、今まであまり目を向けられることがなかった市場に参入することにより、その「商品」の流動性が高まるけれど、もともと流動性が高いわけではないので、いざなにかことが起こると伝統的な投資資産にお金が一気に流れ始めるんですねぇ。




最後に、次の記事につながる話でこの感想文を終わります。


この本を読んで「フィクションぽいな」と感じたのです。別に内容が信用できないとかそういう意味ではなく、書き方が非現実感を醸し出しているなぁという感想を持ったのです。


その理由はいったいどこにあるのか?


おそらくは、文章が「人間」カットで書かれているからなのだろうなと思うんですよ。もし「時間」カットならもっと現実を感じることができたのではないかと思うのです。


現実と非現実。本書の内容とは全く関係ないそんなことまで考えさせられる本でした。
非常に面白かった。