筒井康隆著 旅のラゴス

今週取り上げる作品は、先週の虚航船団の作者、筒井康隆の「異色作」、
「旅のラゴス」である。
旅のラゴス (新潮文庫)


この作品についての解説は不要である。この作者の作品としては珍しく、
「読めばわかる」のである。
この物語は、いわゆる「SF」である。作者の脳内に構築された別世界で
起こる出来事がつづられている。


単行本版の帯を見ると「筒井式超能力」とあるが、これは正しく無いので
はないかと思う。作者の著書に「超能力とは存在するか」という問いに対
し、「存在しない。もし存在するのならそれは能力だ。」と答えていると
ころがあるが、この作品で描かれているのは、まさに「能力」としての
「超能力」である。


さて、本題に戻ろう。
この作品は連作作品のような体裁をとっている。短いエピソードが12編、
その1編1編が独立した物語としても十分読めるようになっている。しか
し、それを続けて読むとまた違う味わいがある。
まさに「これぞ物語」である。


それぞれの短編の中で、主人公を襲うトラブルが発生し、それを自分自身、
また仲間達とともに解決していく。その中で時が流れてゆく。壮大な物語
である。


この作品も「原始人に技術を教えるスレ」を読んで思い起こされた作品で
ある。


ぼくのアンテナが狭いせいで知らないだけかもしれないが、非常に映像化
しやすいこの作品が、映画にもアニメにも漫画にもなっていない。それが
非常に不思議である。
もしかすると物語を消費するだけの読者であるぼくが気がつかないような
しかけが裏にあり、クリエーターから見るととても歯が立たない作品なの
かもしれないと思うこともある。
ただ、もっと可能性が高いのは、筒井康隆の世界に耽溺している読者にと
っては「異端作」と見られ、物語を愛する読者に取っては「物語を破壊し
筒井康隆作品」と見られてどちらのアンテナにも引っかかってこないと
いう状況であろう。


繰り返しになるが、この作品は1編1編が独立した作品として完成してお
り、それぞれ違う読了感を持っている。そして、全編を通して読むと、ま
た違う良質な物語を読んだ時に感じる何とも言えぬ読了感におそわれる。


ぼくが今まで読んできた物語の中で、その作品中で完成してるもっとも強
固な世界を持つ物、それが「旅のラゴス」である。

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ではまた来週。