漫画というシステム




先週は、漫画という表現手法の特性から来る可能性と、雑誌連載という発表
方法による効果について述べた。
今回は漫画ができあがる過程に起因する可能性について述べる。


漫画という限界」で書いたように、漫画家が連載を維持するには読者の支
持が必要となる。どんなに一部の熱狂的なファンがいても、その絶対数が少
なければ漫画の連載を続けることはできなくなってしまうことが多い。
瞬間風速的な読者の支持を気にせず、自分が本当に描きたいものを描き続け
られるのは、実績有るごくごく一部の漫画家が、瞬間的な人気を重視してい
ない媒体で発表しているときのみであろう。


このことは限界にもなるが可能性も生み出している。読者参加型の物語構成
が可能になるのだ。


読者からのフィードバックが、作者が当初全く想定していない種類のものだ
った場合、作者自身が作品の新たな可能性に気づき、方向性を修正すること
が可能になるのだ。
またまた高橋留美子作品の話で申し訳ないが、うる星やつらラムちゃん
レギュラーになったのも、めぞん一刻がラブコメになったのも読者の反応が
そもそものきっかけとのことである。
もし読者の初期の反応が違った場合は、まったく違う展開を見せていた可能
性があるのだ。


この、読者からの反応を生かして作品を成長させていくという能力は、漫画
家に不可欠とまでは行かないが、必要な能力の一つなのではないか。
しかし、読者は移り気なものである。そのため自分の構築した作品世界を確
たる物にしておかないと、時代と読者に迎合しているだけの漫画というレッ
テルを貼られてしまい、一時的にでも人気を失ったとき、熱心な読者という
必ず読んでくれる層がいないという状態にも陥りかねない。


僕が思う「最強の漫画家」像は、読者からのフィードバックを最大限に自分
の作品に取り込み、かつ作品の構成上譲れない部分は妥協することなく、人
気を保ったまま自分の思い描いていた通りの作品を完成させる漫画家である。
自分で創作していない人間が口で言うのは非常にたやすいことではあるが、
大変難しいことであることは容易に想像できる。


さて、漫画は作者と読者により作られていくという論旨になっているが、も
う一つ重要な要素がある。


それは「編集」である。


漫画に限った話ではないが、編集者というのは作者にとっては読者の代弁者、
読者にとっては作者の代弁者である。
作品が世に出て評価されるためには編集者の存在が欠かせないのである。


編集者は、まずその作品あるいはその作家の資質を見極める。そして

  • その作品は商業的に成功することができるか
  • その作品は世に問う価値があるか
  • その作品が上記に合致しない場合、修正して合致するようになる可能性はあるか。

ということを評価する。
その結果発表に値すると判断した場合には作家をサポートし世に問うお手伝
いをする。
作家が作品を世に問うためには、まず編集者を落とさなければならないので
ある。その編集者が作品に可能性を見いだした場合には、必要が有れば出版
社サイドに作品を世に問う価値を説明し理解を得て、はじめて作品を発表で
きるのだ。


そして連載という形で世に出た作品の場合は、読者の反応を作家に伝え、必
要が有ればアドバイスをして、その作品世界がより読者に伝わるように努力
をする。それが編集者の役割ではないかと考えている。
漫画は読者のフィードバックを取り入れることが必要という話をしたが、時
には読者の期待をあえて裏切ったほうがかえって読者に受け入れられること
もある。その判断は作者がすることも多いであろうが、編集者の意見という
のも大きな比率をしめているのではないか。
失礼を顧みず言うと、作者は自分の作品世界に浸りがちになるものである。
でもその作品を世に出したいという気持ちはもちろんある。
その時に何に妥協して何を妥協しないか、どこで読者に迎合し、どこで裏切
るか、ベテランならともかく新人には非常に難しい判断であると思う。そこ
では経験豊富な編集者の知恵がどうしても必要になるであろう。


編集者というかこれは出版社になるのかもしれないが、もう一つ重要な役割
がある。
それは商業的な成功のためのサポートを行うことである。


作品を紹介する効果的なあおり文句を考え、読者層を分析し、その層に特化
したプロモーションを行うのか、あるいはパイを広げる方向でのプロモーシ
ョンを行うのかを、その作品、作家の特性を考慮に入れつつ考える。
作品世界から考えれば付帯的な仕事と思われるかもしれないが、作者も編集
者も出版社も、その作品が生み出す価値で生活している以上重要なことであ
る。作家個人がその作業を行うことは可能であるが、作品を生み出す作業を
しながらということになるので、編集者、出版社がやった方が効率がよい。


作品の持つ力というのが全ての始まりであるということに異論はない。
しかし、作者、読者、編集者、出版社、それらすべてがはまったときに、作
品はより多くの人に知られることになり、より大きな感動とより多くの対価
を生み出すことになるのである。

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短いといいながら十分長くなったような・・・
来週からは総論です。


今日は久しぶりにつじ田でラーメン食ってから飲みに行くかなと♪