第二日:基礎体力

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ハヤテのごとく!は漫画である。少なくとも漫画という表現方法を使って描かれている。


今日は漫画としてのハヤテのごとく!の基礎的な部分を論じていく。


まず、僕なりのキャラクター紹介を書いてみよう。その中であらすじも見えてくるはずだ。


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  • 綾崎 颯(ハヤテ) 16才

主人公。三千院家(ナギが住む別邸)の執事。超人的な肉体を持つ。子供の頃から苦労を重ねているため、様々な知識を持っている。ナギ誘拐しようとしていたが、人の良さが災いし失敗。逆にナギを助けることになったことをきっかけに執事として働くことになった。両親の借金で売られて、臓器を取られそうになったという笑えない過去を持つ。
借金は約一億五千万。ナギが肩代わりしたため現在の貸し主はナギ。ハヤテにとってナギは命の恩人である。おそらく四巻現在でハヤテにとって世界で一番大事な人はナギである。

ヒロイン。大金持ちという表現では失礼なくらいの三千院家の跡継ぎ。漫画やアニメが好き。数年前両親を事故でなくしたという笑えない過去を持つ。弱点が多くわがままないわゆる「お嬢様」だが、頭脳は明晰でときおり優しさも見せる。そして一途でもある。ハヤテの誘拐未遂の時に「ハヤテに愛を告白された」と勘違いをしている。(これが「爆弾」である)実際の誘拐の時にはハヤテに助けられているので、ナギにとってもハヤテが命の恩人である。きっかけは誤解だがハヤテに恋をしている。
しかし、四巻現在では彼女にとってはハヤテよりもマリアが世界で一番大事な人と思われる。

  • マリア 17才

三千院家(ナギが住む別邸)のメイド。頭脳は明晰で超人的な執務能力を持つ。クリスマス・イブの夜に教会のマリア像の前で拾われた子供だったという笑えない過去を持つ。ハヤテのあこがれの対象でもあり、物語の進行役でもあるが、ナギの母親代わりという役割が一番大きい。
現時点ではナギの成長が人生の糧である。

  • 西沢 歩 16才

ハヤテがトラブルに巻き込まれる前の高校のクラスメイト。ハヤテが高校を訪れた時に偶然再会する。以前からハヤテに恋心を抱いていたため告白するが、壊滅的な振られ方をする。
ただし、この漫画の中では例外的に一般的な意味で不幸ではない登場人物である。しかし作中や表紙、Webサイトでの扱われ方は非常に不幸である。

  • 橘 亘(ワタル) 13才

ナギの許嫁。橘グループの御曹司であるが、今は没落しているため、ビデオレンタルショップの2階に住んでいる。金のためにナギと結婚することをよしとしていない。そのために事業を大きくし、三千院家以上の財産を築くことを人生の目標としている。母に関心を持たれずに育ったという笑えない過去を持つ。

  • タマ

なぜかアフリカで拾われたホワイトタイガー。ナギにもうすぐ死にそうな状態で拾われたという笑えない過去を持つ。なぜかナギは「猫」と言い張っている。ナギとマリアにだけなついている。ハヤテとは二回戦った後に仲がよくなったようだ。
日本語をしゃべれるが、「少女の夢を壊さない」ためにナギやマリアの前ではしゃべれないふりをしている。しかし「少年の夢はむしろ壊したい」ので、ハヤテやワタルの前ではよくしゃべる。

  • 倉臼 征史郎(クラウス) 58才

三千院家の執事長。超人的な能力を持つ。マリアには弱い。茶目っ気がある。

ナギやワタルが通っていて、四巻でハヤテも通うことになった白皇学院のアイドル的な存在。生徒会長で剣道部。失踪した両親に借金を押しつけられたというハヤテと同じような笑えない過去を持つ。負けず嫌いで努力をして現在の位置を占めるに至った。義理の両親と暮らしている。姉の雪路とは一見中が悪そうだがお互いに大事に思っている。ナギはヒナギクにあこがれている。

  • 鷺ノ宮 伊澄 13才

鷺ノ宮家のお嬢様。ナギの書く漫画を唯一理解できる人物。そのためナギにプロポーズされたという笑える過去を持つ。ナギの数少ない友人の一人。家族との関係など詳細は不明。
四巻現在で、どうやら動物をコントロールできる術を持っていることが明かされている。

  • 愛沢 咲夜 13才

ナギの友人でもあり親戚。関西人。笑いに命をかけていて半端なネタは決して許さない。ナギの漫画を馬鹿にしている。
家庭環境は幸福とまでは言えないようであるがギャグで示唆されているだけなので詳細は不明。父と妹三人弟一人がいる。また、腹違いの兄ギルバートがいるが彼の存在を知ったのはつい最近である。
お嬢様ではあるが庶民的な感覚の持ち主。

  • 貴島 沙希(サキ) 20才

橘家のメイド。というよりもワタルの母代わり。メイド、眼鏡、ウブ、ドジという、特徴的なキャラクターが多いこの漫画でも最強の特徴を持っている。
ハヤテのことを男性として意識はしている。

  • 桂 雪路(ユキジ)

白皇学院の世界史教師。ヒナギクの姉だが、妹とは違って空気が読めずお酒大好きというだめな大人として描かれている。お金に困っている。だが生徒からは人気がある。ヒナギク同様笑えない過去がある。現在は一人暮らし。

三千院家の当主。ハヤテを倒した物に遺産を相続させるという困った状況はそもそもこの人が原因である。
直接血のつながった親族がナギだけという笑えない状況である。




この順番が、物語としてハヤテのごとくをとらえた場合の僕の順位付けである。
もちろんあくまでも主観である。
蛇足ではあるが、さらに主観的なるに漫画としてとらえた場合の順位付けも書いておこう。


ハヤテ
ナギ
マリア
ヒナギク
伊澄
ワタル
サキ
咲夜
クラウス
タマ
西沢
エイト
牧村
ギルバート
三千院帝


本当に蛇足だ。まるで意味がない。




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さて、どれほど壮大な構想を持って挑んだ作品でも、一定の人気が得られないと発表する場すら奪われてしまう。それが漫画である。そのためには、連載初期の段階で固定読者を得ることは非常に重要である。
今日列挙する要素はそのために用意されたものでもあるはずだ。また、既存の漫画の読者が初期の読者のメインとなるので、あまり奇をてらったものも受け入れられない可能性が高い。そこで、今までの類型をふまえた、既存読者が安心して読めるような設定や筋書きのわかりやすさも必要であろう。


漫画というのは一話一話を読んだだけでは、それぞれの骨格部分しか話は見えてこない。特に物語性が強い構成の漫画を、評価が定まっていない作者が描く場合、その最初のエピソードで今後発表の場が維持されるかが決定されるので非常に大事であり、そこをクリアできるかが勝負になることもある。


ハヤテのごとく!の場合、その最初のエピソードに賛否両論はあるだろうが非常にインパクトが強い物を持ってきた。しかし、おそらくそれを何の特徴もなく平板に語っていた場合、現在のような人気すら出なかったであろう。漫画には連載初期にわかりやすい特徴が必要となるのである。
この漫画には初期の読者の支持を得るために与えられた要素が、大きく分けて三つあると思う。
それは

である。


もう一つ

  • パロディ

があるが、上記3つの特にギャグに含まれている場合もあり、また全く違う役割も合わせ持っていると考えているので三日目に詳しく述べる。


上記以外にも細かい要素がいくつか有るが、一部については今日の最後で述べることにする。


この漫画を読もうとする気になった人はこれらの要素のどれかに心を引かれたのではないだろうか。そして、この漫画のことを気に入った人は、これらの要素のどれか、あるいは複数が、あるいは全てが自分の好きな種類のものだったのではないか。
これが、この漫画の基礎体力部分である。


四巻の範囲からははずれてしまう部分なのだが、僕の場合は、ハムスターを使ったギャグでこの漫画を読もうという気になった。


それでは、三つの要素について個々に見ていきたい。

  • 萌え

僕のこの漫画への第一印象はこれである。「なるほどこれが萌え漫画か」と思ったあの頃が今では懐かしい。この文章を読んでくれている皆様にはどやされそうだが、僕は「萌え漫画だ」と思ったときからこの漫画を真剣に読むのをやめていた。なので四巻発売まで、記憶の中で欠落している話があったのだ。そういう人間が萌えを論じるのはおこがましいのだが、恐れていては先に進めない。ハヤテのごとく!の場合を通して萌えについて論じていく。
この漫画の登場人物、特に女性キャラクターは記号化され、細分化されている。
お嬢様は、わがままで負けず嫌い(ナギちゃん)、おしとやかで浮き世離れしたテンポを持つ(伊澄ちゃん)、庶民的で活発(咲夜ちゃん)の三種類が今のところ用意されている。三人が共通して持っている属性は、非常識なくらいの金持ち(屋敷に遊園地を持っている)、世間知らず(咲夜ちゃんは不明)である。
メイドさんは二種類、完璧で隙が無いが世間知らず(マリアさん)、眼鏡をかけていていつもドジをする(サキさん)が用意されている。共通点は記号としてはメイド服がある。しかしこの漫画の場合、二人とも主の母または姉代わりという役割も持っている。
ここまでで五人。
さらに四巻で、お嬢様ではなく努力を惜しまない学園のアイドル的存在(ヒナギクさん)と、極普通の女子高生というこの漫画の世界では非常に特殊な位置にいるキャラクター(西沢さん)が加わった。
また、女性ではないが、主人公のハヤテ君も萌えの対象として描かれている。


これら、記号化されたキャラクターには、それぞれ固有のファンがつき、この漫画の読者となっていく。萌えにはそういう初期の読者を獲得するという重要な役割を任されているのである。余談であるが、僕から見て、作者から特別扱いされている登場人物が二人いるように思える。
一人はナギちゃんである。この漫画のヒロインとして設定されているので当たり前の事ではあるのだが、全ての話に登場している。扉絵に描かれることも多い。そして作者が、他の登場人物に埋もれないように、できるだけ可愛らしく書こうとしているように思えてならない。
もう一人は西沢さんである。作者の言葉でナギちゃんのライバルとして指定されているのにもかかわらず、非情なまでに、冷酷なほどに、報われないキャラクターという扱いをされている。これは逆に重要なことではないかと僕は感じている。

  • ギャグ

僕がこの漫画を読むきっかけになった要素である。今回論じる範囲外なので詳細は記載しないが、僕が面白いと思ったのは、登場人物の住んでいる世界の違いを端的に表現したギャグである。ある登場人物が、異常な人物が暮らす世界に放り込まれる、あるいはその逆に異常な人物が日常の世界にやってくるというギャグの類型がある。実は僕はその時まで、この漫画はギャグ漫画ではないと思っていた。それはその類型が存在することがわからなかったからだ。しかしどうやら類型が存在し、それを説明するためのギャグが僕にとっては秀逸だったためにこの漫画を読む気になったのである。
漫画で描かれるギャグの手法には、当たり前のことだが大きく2種類がある。一つは絵を使って笑いを得ようとする物、もう一つは文字(ネーム)で笑いを誘発させようとするものである。漫画のギャグで強烈なのは前者、絵を使った笑いである。夜漫画を読んでいてこらえきれずおなかを押さえながら笑うのはこの種類のギャグである。
絵を使ったギャグを、たとえば電話を使ってその漫画を読んでいない人に伝えようとしてみよう。伝えることはまず不可能だ。うまく伝わっても「あーあ。壊れちゃったね」と思われるのが関の山だ。この手法は音声や文字だけで再現することはまず不可能である。この手法は僕が大好きな「マカロニほうれん荘」で多用されている。面白さを言葉で他の人に伝えるのは少なくとも僕の力量では無理だ。
それに比べて文字を使ったギャグは人に伝えられる。
僕はこの漫画を物語として語ろうとしているが、一番好きなのはナギちゃんの次の台詞だ。

ポーン。この電話は現在使われておりません。ご用のある方は発信音の後にメッセージを残すとお前の家が火の海だ。

壊れていることば、「神聖モテモテ王国」の面白さに通じる言葉のギャグである。
ただ、漫画という枠組みで考えると絵のないギャグは寂しい。登場人物の表情やその言葉と全くそぐわない状況があって際だつギャグの方が寄り印象に残る。
畑健二郎さんは文字を使ったギャグを多用している。また、絵だけで説明できるギャグでも文字であえて解説する。僕が気に入ったギャグも、普通なら絵だけで説明される種類の物だった。でも作者畑健二郎さんは文字でも解説を加えていた。それに気づいて、もしかすると今まで真剣に読んでいなかったから読み落としていただけで僕が好きな種類のギャグが他にもちりばめられていたのでは無いかと思ったのだ。
また、この漫画ではそれぞれの話で「二段落ち」を使っていることが非常に多い。好きな人嫌いな人、それぞれ好みは分かれると思う。二段落ちは、異常な状態で話を終えるのではなく、この漫画の世界での日常に戻してその話を終えるという効果があると見ている。ただ、二段落ちの多用のそもそもの理由は、この作者の、絵だけではなく文字でも解説をするという所にも見られる「説明好き」な性格なのではないかと思っている。

この漫画では、冒頭で誤解による恋愛感情が生じている。誤解とすれ違いによる構成をとるラブコメの基本的な骨格である。僕はこのハヤテのごとく!という漫画は、一見ラブコメの様に見えるが、実態はラブコメではないと感じている。それについては日を改めて六日目に詳しく述べる予定である。




さて、ここまで書いてきた3つの要素には共通点が有ると思っている。それは、作者がそれを好きである、と思われることである。好きこそ物の上手なりとは行かないのが世の常ではあるが、好きなだけに過去の類型に精通していて、なんとかして新機軸を打ち出したいという思いも見え隠れしている。




主要な要素以外についても簡単に述べる。
一つはスーパーヒーロー物の要素だ。ハヤテ君は名前を呼ぶと駆けつける。まさに古くからのヒーローの類型である。
もう一つ、白馬の王子様の類型である。登場人物の女の子や少女が運動神経抜群でそこそこかっこいい少年に「僕が君を守るよ」と言われる。彼が途方もなく不幸で貧乏であることを度外視すると、スーパーヒーロー物の要素と合わせて少女の夢的な設定と言えないこともない。


今日の最後にこの漫画の基本的な構成についてまとめてみたい。
基本となるのは

である。それらはある時は単独で、またあるときは複合して描かれている。基本的には、それぞれの要素が読者に受け入れられる「間口」の部分は、特に「萌え」の場合は狭いように感じている。しかし、その狭い間口を数多く用意して、結果として広い間口になるように工夫をしているのではないだろうか。

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つづく