ヘルマン・ヘッセ著『車輪の下』読むな!!

今日もなんとかがんばって当初予定通り中高生向けに書いてみます。
この本も「読まされた」経験がある本です。嫁っていわれるんだよなぁ。嫁って言われると真剣に読む気が急速に薄れるんだよなぁ。素直じゃないなぁ。


たぶん数十年ぶりに読んでみたんですが、ちょっと驚きました。過去の名作を読み返すと驚くことばかり。この小説こんな話だったんだ。キャラの使い捨てしまくりです。


本筋は両親や地域の人々に期待されていたハンスという非常に頭の良い少年が道を外れて悲劇的な最後を迎えるという話です。まぁあらすじサイトとかでもこんな感じで解説されているだろうし私もあらすじ書けと言われたらこう書く。
この小説を読むに当たっては、予備知識としてドイツの教育制度の概要を知っておいた方がいいでしょうね。昔は先生が教えてくれても右から左へ聞き流していて全く頭にはいってこなかったけれど今はネットがある。ちょいとググれば出てきます。
Googleトップ表示だったサイトがわかりやすいので紹介します
ドイツの教育制度
私が子供の頃得た知識はおおかた合っているらしい。

でも、シュタイナー教育が特別なのではなく、日本が特殊なのだ、ということを考えていただきたいと思います。

日本の教育制度は戦後にアメリカからほぼそのまま移植したらしいので、日本独自の制度というわけではありません。ここではドイツの教育制度と日本の教育制度は根本的に異なっていて、日本で言う小学生高学年の時に進むべき道があらかた決まってしまうということを理解すればいいと思います。
とはいえ、どこぞの会社、たしかダイムラー(メルセデス・ベンツの会社)だったかで、専門技術職上がりでCEOまで登り詰めた人もいたと言う話があったから、道を決めると行ってもその後一生その仕事をするとは限らないんでしょう。この制度のどの学校を出た人かは覚えてないですが…。能力さえあれば他の人から必要とされて専門的に学んでいない仕事をすることもありえる。
とにかく、この小説をこの制度を知った上で読むのとそうではないのとでは受ける印象が違います。


さて、解説でも触れられているように、この小説では様々な魅力的な脇役が登場します。もし感想文を書く時にそのサブキャラ的な登場人物にスポットを当てて書くのはお薦めです。それぞれが自分の物語を持っている人たちです。彼ら、彼女らは『車輪の下』という物語には瞬間的に登場するだけですが、彼ら、彼女らの物語を想像しそれについて感想を書くのは、比較的楽で、しかも本を読むトレーニングとしても非常に役立つと思います。おそらく本筋を追った感想文を書く人が多いでしょうから、差別化もできます。極論を言えば、本筋の感想なんて一般的に知られているあらすじを知っていれば書けちゃうので、評価する側は、サブキャラにスポットを当てた感想文の方を高く評価するような気がするんですよ。私が評価する立場ならころっとだまされます(笑)。本筋については1行2行触れておけばOK。
たとえば、ハンスが通っていた学校のクラスメイトの誰かにスポットを当ててもいい。ハンスの父親も面白いし、牧師さんや牧師さんを批判する人もいい感じです。もちろん終盤でハンスが淡い恋に落ちる少女のことに思いをはせるのも魅惑的。職人の皆さんもいい人ばかり、人を殺した女の人なんかもう最高です。
私はね、この小説の面白さの源はあらすじには無いと思いますね。「使い捨て」にされるサブキャラがものすごくいい味を出している。ゲストキャラでドライブされているギャグ漫画みたいな感じ。連載が終わってしばらく経っているので中学生・高校生の中には知らない人がいるかもしれませんが、久米田康治さんの『かってに改蔵』っていう漫画と似ています。
未だかつて『車輪の下』の感想に『かってに改蔵』が引用されたことは無いかもしれませんけれど似ている。構造がとってもよく似ている。


一応、『車輪の下』本筋について今の自分が感想を書くとしたらどう書くかというお話もしておきましょう。
偉そうな物言いになってしまいますが、自分が中高生の頃はこういう読み方は絶対に出来なかったと思うので、誰かに提出する読書感想文としてはレベルが高い物になってしまうかもしれません。
私は「幸福論」を前面に出したいと思います。つまり、ハンスは結局不幸だったのか?幸せだったのか?という疑問です。冒頭のあらすじで書きましたが、この物語は悲劇的な結末を迎えます。でも、その悲劇的な結末というのは、作者が主人公ハンスに幸福を与えるために用意されたように思えてならないのですよ。期待され、挫折し、死を考えた少年が、ようやく自分の居場所を見つけた時に人生が終わってしまう。私にはこの物語が挫折と転落をえがいているようには思えない。むしろ、人間の成長をえがいていると思えます。それは、悲劇が生まれた原因が、不慮の突発的な事故によるものなのか、あるいは彼の中で眠っていた死への衝動が目覚めたことによるものなのかという謎には関係なくそう思います。


もしかすると名作感想文シリーズでは一番の長文になっているかもしれませんね。正直言ってべたべったの展開の話だとは思うんだけど面白いんですよね。解説や感想サイトを見ると、『車輪の下』は、作者の少年時代の経験を自伝的に著した小説だと書かれていることが多いですが、研究者ではない普通の読者にとってはそんなことは関係ない。とにかくこの作品世界そのものが面白い。だから感想もついつい長くなる。しょうがない。


最後に、中学生高校生の皆様へ。
もし、私が皆さんに課題を出す立場だったとしたら、この本は絶対課題にはしません。むしろ、「絶対読むな」と指導します。この物語はその後の人格形成に大きな影響を与える可能性が高い。それも良くない方向に影響を与えてしまうのではないかと危惧します。
読んだ生徒になんらかのペナルティを与えるような規制をしたいです。


ただ、そんな規制をされても読んでみたいと思う生徒も当然いるはずです。規制されて逆にどうしても読みたくなってしまうような生徒もいるはず。私がそういう指導をされたら当然読みます(笑)。
でも、そういう人は大丈夫です。この本に取り込まれることは無いと思います。ペナルティを発動するかもしれないけれど、内心「こいつはなかなかいけてるじゃねーか」と思うでしょうね。
だからね、もし学校で先生がこの本を課題に出したら「ああそういうことなんだ」と思っていいと思います。


「この先生は我々生徒のことを高く評価していて、かつ信頼してくれているんだな」と。


車輪の下 (集英社文庫)

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かってに改蔵 (1) (少年サンデーコミックス)

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カテゴリ 読書感想文
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