森鴎外著『杯』色を感じる小説

山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)

山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)

この文庫本は短編集です。その冒頭に『杯』という小説が収録されています。非常に短い小説です。5分もあれば読み終わります。しかし、私にとってはこの本の中で一番印象深い作品でした。


11才〜12才くらいの女の子7人が先を争って泉に向かっています。その懐には銀色の「自然」と書かれた杯を忍ばせていました。そこにもう一人の女の子、14才〜15才くらいでしょうか?がやってきます。金髪、碧眼、おそらくは異人です。彼女は黒い小さな杯を持っていました。


とまぁあらすじをこの先まで書くと全部書き写しているのと大差なくなってしまうのでやめておきます。
もし、題材を自由に選べて、かつこの本をたまたま選んだとしたら、私は山椒大夫ではなく、高瀬舟でもなく、この小説で読書感想文を書くことを選びますね。この小説は短いですがいろいろと想像、というか妄想ができます。銀の杯に書かれていた「自然」という言葉の意味、そもそもなぜ銀なのか、それは異人の少女の持つ黒い杯と何を対比させようとしているのか…。


感想文という切り口ではそうなりますけれど、この小説については私の素の感想も書きたいです。
色を感じます。ものすごく鮮やかです。そして、もう一つの色、色っぽさも感じます。はしゃいだり、異人をいじめたりする女の子たちが生き生きと目に浮かんできます。そして、彼女たちは、まだ子供なのに色っぽいんです。
全く持って失礼な話ですが、森鴎外という小説家はすごいんだなぁと初めて思いました。


この小説を題材に短い漫画を描いたら意外と受け入れられるのでは無かろうかなんて事も思いました。今の時代なら、きっと。