齋藤勝裕著『分子のはたらきがわかる10話』

分子のはたらきがわかる10話 (岩波ジュニア新書)

分子のはたらきがわかる10話 (岩波ジュニア新書)

今日の感想文は2部にわけます。最初はこの本を課題として読書感想文を書かざるを得なくなった場合どうかくかという問題について、自分なりの答えを、2つめとして自分なりの感想を書きます。
岩波ジュニア新書というレーベルにだまされてはいけない。大人が読んでも楽しめる良書です。

『分子のはたらきがわかる10話』を読んで感想文を書こうとしている人へのアドバイス

タイトルの通り、この本には10話の大項目があります。「結合する」から始まって「治療する」まで。もし、課題をクリアするためにこの本の感想を書くのでしたら、そのうちどこかに的を絞って書くことをお薦めします。
実際にはそれぞれの章は独立していません。それぞれが関連しています。しかし、そこまで目を配って感想を書くのは大変です。私だってやりたくないですね(笑)。


どの章に主眼を置くかは、人によって得手不得手、好き嫌いがあるから一概には言えないですけれど、私だったら9話の「膜になる」を選択します。
本文中化学式が登場するので取っつきづらい部分はあると思いますが、とても面白いです。海に広がる油の膜から始まってシャボン玉、選択の話。そして生体の細胞にまで至ります。そもそも生物とは何かという根元的な疑問にまで話が進んでいきます。これは面白いです。今読み返して驚いたのですが、それがたったの18ページで語られているのです。
この話のポイントは疎水性を持つ部分と親水性を持つ部分がある分子は膜を作ると言うところにありますが、その膜がどうやってできるのか、さらにはどういう役割があるのか、それだけをつらつら書くだけで原稿用紙5枚分くらいの感想文は書けると思います。そこに自分に身の回りにある膜の話を絡めて、それが何なのかという答えを出すのではなく、自分の想像、予想を書くだけでも「よい読書感想文」と思われる物が書き上がるのではないかと思います。


1点だけ指摘しておきたいことがあります。
この本には、少なくとも私が他の何冊かの本から得た知識を総合すると、わかりやすくするために単純化している部分、言葉を換えて簡単に言うと「嘘」も混じっています。おそらくはそれは著者が意図的にそう表現しています。しかし、それはこの本の弱点にはなっていないです。むしろ長所になっていると思われます。
どこに「嘘」と思われる記載があるのか、それは書きません。そもそも専門家でない私の勘違いである可能性も高いですしね。
本当のことを書いてあるということだけが良書の条件ではないです。この本は、この本を読むことによってその世界に興味を持ち、さらに深く勉強しようと言うきっかけになる、そんな力があります。

『分子のはたらきがわかる10話』の感想

小学生高学年の時むさぼるように読んだ本があります。岩波文庫の『化学の学校』という本です。

化学の学校 上 (岩波文庫 青 903-1)

化学の学校 上 (岩波文庫 青 903-1)

化学の学校 (中) (岩波文庫)

化学の学校 (中) (岩波文庫)

化学の学校 下 (岩波文庫 青 903-3)

化学の学校 下 (岩波文庫 青 903-3)

その本をきっかけに化学の道を歩んだのならそれはそれでちょっといい話になるのですが、私の場合はそんな展開にはなりませんでした。
『化学の学校』は今では入手困難だと思います。ドイツかな?の作品を翻訳した本で、先生と生徒が対話形式で化学を学んでいるという物でした。今になって思うとずいぶんと古い内容で、今では誤りであることがわかっていたり、危険なのでやってはいけないと言われるような実験が記載されていたりしていた記憶があります。そう。その本を読んで30年経った今でも記憶に残っているんです。
『分子のはたらきがわかる10話』を読んで、『化学の学校』のことを思い出しました。岩波ジュニア新書というレーベルがどういった年齢層を対象としているのか、正確なところはわかりませんが、小学校高学年から高校生に至る少年、青年期の人がこの本を読むと化学に興味を持つことができるのではないか、そう思いました。


この本はなかなか面白い構成を持っています。基本から応用という形ではなく、用途ごとに分子について書かれているんですよね。方向性は違うけれど『有機化学美術館』に近いと思います。上記書籍の元になったサイト 有機化学美術館
勉強のため、というより、娯楽のために読める本です。興味がある人にはぜひ読んでもらいたいので個々の内容には触れませんがめちゃめちゃ楽しめました。そちらの世界のことは知らないのですが、著者はおそらくその筋ではかなりの実力者なのではないかと想像します。決して簡単ではないことをわかりやすく、しかも読者の興味を惹くように記述するって言うのは、生半可な知識ではできないはずです。


岩波ジュニア新書というレーベルの本を読んだのはまだ2冊目ですが、1冊目は当たり、2冊目は大当たりです。もしかするとこのレーベル、宝の山かも知れません。一般向けよりもジュニア向けの方が著者により多くの知識、経験が必要であり結果的にジュニアだけではなく大人にとっても楽しく読める物ができあがる、そんな、青年漫画と少年漫画の関係みたいな事が新書にも適用できるのかも知れません。


久しぶりに迫力ある新書に巡り会えました。