ハヤテのごとく! 「西沢歩」と「京橋ヨミ」から考える、作者視点と読者視点の違い

この記事を読む人の中に『ハヤテのごとく!』という漫画を読んだことがない人はいないかもしれないのですが、どうしてもエラー処理を入れたくなるプログラマーの性でして関係あるところだけを説明してから本題に入ります。


まずはタイトルに入れた2人のキャラクターについてです。
西沢歩」「京橋ヨミ」ともに女の子です。「西沢歩」はコミックス4巻(37話)で初登場してその話の中で主人公に告白して振られました。その後この漫画のヒロインの一人「三千院ナギ」とライバル関係を築いたりしてレギュラーキャラクターになりました。「京橋ヨミ」は先週(201話)で初めて登場して、今週(202話)で主人公の恥ずかしい所を目撃しつつ退場しました。
次に、この漫画の作者、畑健二郎さんの特徴についてです。
コミックス、さらにはWebのバックステージというところで、自作について多くを語ります。語る必要がないことまで語っているようにすら見えます。


この記事を読むのに必要な情報は以上です。
では、本題を書き進めましょう。枕の方が長い、なーんてことになったら自分でもびっくりですね(笑)。




さて、まずは作者視点から見ていきます。


西沢歩」初登場の時のバックステージVol.36(2005/6/29)の記述から一部引用します。

それを考えると西沢さんは、えらく噛ませ犬っぽいですが
実を言うとこの漫画の最古参のキャラといっていいキャラでして
まだナギという名前すら固まっていない頃から
『お嬢様の恋のライバルは、やはり普通の人が良いなぁ』
とずっと考えていたキャラです。

続いて、「西沢歩」2回目の登場、主人公と再会を果たし、「三千院ナギ」運命的な出会いをした時の記述をバックステージVol.42(2005/8/10)から引用します。

個人的には今後ナギと西沢さんの関係は
月日の流れとともにキン肉マンの挿入歌
『See you again, hero!』が似合う関係に
なっていってくれれば良いなぁ〜と漠然と思っていたりしています。

まぁ、まだ出会っただけなので
何も始まっていませんが
地道に二人の間に何かを積み上げていこうと思います。



次に「京橋ヨミ」初登場時の作者の言葉を同様に引用します。バックステージVol.210(2008/11/19)

そう言えば新キャラも出てきていましたね。
京橋ヨミさん。
絵柄的には目を小さくして昔の自分の絵に戻した感じでデザインしました。
まぁ新キャラといっても出番が特にあるわけでもないので
ゲストキャラといった方が良いかもしれませんが。
秘かにどうにかこのWEBで活躍させられないかなぁと思ってはいます。





それでは読者の視点に話を移します。
作者が書いた上記の情報に触れていない読者には「西沢歩」と「京橋ヨミ」はどのように見えるのでしょうか?


同じに見えるのですよ。


私が『ハヤテのごとく!』という漫画に興味を持ったのは「西沢歩」が2回目の登場をした43話を読んだ時でした。その時私はまだバックステージを読んでいませんでした。サンデーを毎週読んではいましたが、「西沢歩」に対しては
「出てきていきなり振られてその後出てこないから1回っきりのキャラだったんだなぁ。人気が無かったんだろうなぁ。」
という程度に考えていました。


その時と同じ状態で「京橋ヨミ」というキャラクターを目にしたとします。
「人気が出れば西沢さんみたいにレギュラーになるだろうけれど、人気が出なかったらすぐにいなくなっちゃうんだろうね。」
と思うのではないでしょうか?


作者の都合など読者にはわかりません。作者が「必要だ」と考えていて、その後に起こる様々なイベントを用意しているキャラであっても、読者の一部は、人気が出たからいろいろとイベントを後付で用意して盛り上げたんじゃ無かろうか?と勝手に理解するでしょう。このパターンを「パターン1」とします。
それとは逆に、作者が「一度きり」と考えていたキャラが、作者の思いとは裏腹に読者から絶大な人気を得たと仮定してみます。やむなく作者はそのキャラのために後付でイベントを用意します。このパターンを「パターン2」とします。
「パターン1」と「パターン2」の違いは、情報を持っていない読者にはわかりません。見た目は全く同じに見えます。


自分の好きなキャラが活躍し、自分の好みに合った物語が展開すれば、一部の読者は勝手に「作者はやりたいことをやらせてもらっている」と理解し、逆に自分の好きなキャラが出てこなかったり、自分の好みとずれた話が続いた場合「作者は何らかの制約を受けて書きたいことを書けないのではないか?」などと邪推をする人だっているでしょう。


作者から情報を提示されない限り、本当ことは読者にはわからないのです。そして、作者から情報を提示することは、未だにまだ稀なのです。




先週の「京橋ヨミ」の登場を見て、そんなことを考えてみました。我々は、今、たまたま畑健二郎さんという「多くを語る創作者」に相まみえる事ができました。他にも同じような創作者はたくさんいらっしゃるのかもしれません。そういう創作者の存在するで初めて可能になる作品の楽しみ方、味わい方も確かに存在しています。