ありがとう すっとこどっこい赤坂店

そして、さようなら。





今まであんまりここに書かなかったことですが、かれこれ10年くらいほとんど毎週同じ居酒屋に友だちと飲みに行っていました。
その店は、すっとこどっこい赤坂店といいます。
赤坂店というからには他にも店があるわけで。大手ではないですがチェーンの居酒屋です。TBSの近所ということもありテレビで店の名前が出て有名になったようですがその前から居酒屋激戦区になった赤坂で、一番店ではないでしょうけれど勝ち組に入っているお店でした。土曜日曜の赤坂は居酒屋経営には厳しいところで、基本的に客は少なく、なのにライブがあったり結婚式の2次会からの流れがあったりで一気に客が入ることがあり、オペレーションがぐちゃぐちゃになることを頻繁に目にしていました。その中で安定して集客をして、その結果か十分な数のスタッフさんがいて、急な団体さんにも対応できる体制をとっているお店の一つでした。


特徴らしい特徴といえばこれ。

一部の座席にビールサーバーが作り付けられてて、自分で注ぐことができます。会計はカウンターの数字かけるいくらになります。例えばジョッキ半分だけ飲みたいみたいな時にとてもありがたいし、なによりも最初にジョッキをもらえばあとは店員さんの手を煩わせることなく自分が飲みたいときに飲みたいペースで飲みたい量注ぐことができるという安心感があります。
ピッチャーを頼んでも似たような状況になりますが、最後の方は全部飲みきれるかどうかとか考えなければならないし、ペースが速いとリリーフ陣が追いつかないということも起こります。ストレスを感じないよいシステムです。
しかし、それ以外には特徴らしい特徴はなく、決して安くはない、つまみはおいしいけれどここよりおいしい店だっていくらでもあるだろうし、なのに結局毎週行ってしまう店でした。


居酒屋に求めるものは人それぞれ違うと思います。安く飲めることを求める人もいれば、金に糸目はつけずによい雰囲気でおいしいお酒とおいしいつまみを食べたいという人もいると思います。そして、その「よい雰囲気」というのも人それぞれ違うものでしょう。


すっとこには、私にとって、私たちにとっての「よい雰囲気」がありました。


失礼ながら決して完璧な接客をしているとは思っていませんし、完璧な料理を提供しているとも思っていません。しかし何ともいえぬ居心地の良さを感じる店でした。
その理由を考えてみると、「士気の高さ」というところに思い至りました。
ホールのスタッフさんにも顔が見えない厨房の人にも自然なやる気を感じる店だったんです。忙しくて手が回らないときもあるけれど、何とかして客にいい時間を過ごしてもらおうという雰囲気を感じ取れるというのもありますが、それ以上に、働いている人たちがとても楽しそうだったんです。
居酒屋という商売は決して楽なものではないでしょう。よく言われるブラック企業という中にも居酒屋チェーンは含まれていますし、見ているだけでも遅くまで酔客相手に立ち仕事をしていることはよくわかるので仕事としてはきつい部類に入るでしょう。なのに客にはそれを感じさせないで気持ちのよい笑顔で接してくれると、それだけで居心地がよくなります。
我々は決していいお客ではないです。わりと無茶ぶりをします。もちろんできないことはあるけれど答えてくれることもある。
具体例を書こうと思いましたがやめておきます。できることではあってもできるときとできないときはあるはずなんで「ネットでこういうことができると書いてあった」とかいわれるとめちゃ困るんで。





そう思っていたのは決して我々だけではないはずです。
閉店の日、普段は行かない平日の夜に店を訪れると、何度か顔を見たことがあるお客さんも飲んでいました。スタッフのみなさんがテーブルを回ると名刺や電話番号の交換をしているグループがいくつもありました。営業不振で閉まる店も多い中、客に愛されたまま事情によって閉店する店というのはそれほど多くはないのかもしれません。お店もそれにこたえるようにその日は通常の閉店時刻2:00を過ぎても店を閉めることはなく、始発が動き出す時間帯までおいしい酒とつまみを出し続けてくれました。いつものような無茶ぶりにも苦笑しながらできる限りで答えてくれました。
蛍の光が流れるわけでもなく、静かに営業は終わり、看板の写真を撮ったりして名残を惜しみながら寂しさを笑いで紛らわせて三々五々帰途に向かいました。


すっとこの赤坂以外の店は川崎市横浜市にしかありません。いずれ遠征には行きますが、いつもより早い時間に飲み始めて終電の時間を気にしながらのイベントになってしまいます。一度遠征に行った石川町のお店は赤坂とは雰囲気が違うけれど居心地の良さは変わらなかったし、スタッフのみなさんは別のお店にも出ているとのことなのであまり心配はしていないのですが、今までのように毎週毎週というわけにはいかないのは寂しい限りです。




この機会に毎週赤坂で飲むというスタイルを変えるかもしれないくらいインパクトがある閉店。久しぶりにどこで飲むかを考えながら街を歩くと、あったはずの店が閉まっていたり、残念ながらあまりお客が入っておらず呼び込みをしているお店があったり、赤坂の街も様変わりしていました。10年以上にわたり一つのお店に甘えていたつけが回ってきたというところですが、また新しい店を探したり、新しい場所、たとえば秋葉原とかお茶の水とかを開拓したりという楽しみも生まれるのかなと思っています。




最後はこの言葉で〆ましょう。
スタッフのみなさん、長い間ありがとうございました。
ごちそうさま!