読書感想文 志賀直哉著『赤西蠣太』

志賀直哉作品を読むのも久しぶり……。


前にも書いたけれど完全にこの作者のことを誤解していたね。むろん文章術は素晴らしいと思う。でも、それ以上に娯楽小説の大家なのではなかろうか?
この作品、題名となっている「赤西蠣太」というおかしな名前の侍が主人公です。決してかっこいいとはいえない男なんですがね……。ああ、ネタバレをするのがはばかられる(笑)。明確に書いてある訳じゃないんですよ。読み返してみたけれど書いてあるとは思えない。でも、巧みな文章で読者にはそれがわかるんだな。すごいっすね。
なにはともあれ「赤西蠣太」は酒も女もやらない、でも甘い物が好きというキャラクターです。そんな彼が唯一好きなのが将棋。その将棋が取り持つ縁で「銀鮫鱒次郎」というこれまた変な名前のお侍と仲良くなるんですねぇ。「銀鮫鱒次郎」の方は名前はこれですが、酒も女もやるいい男という設定です。そんな2人がなぜか意気投合するのですが、それはなんとなくわかるなぁとか思いながら読み進めるわけです。だって、自分が持っていない何かを持っている人とは不思議と気が合うじゃないですか。


その後ちょっとした事件があり、ある男が命を落とすことになります。その事件と関係をして「赤西蠣太」は江戸を離れなければならなくなりました。しかし、突然いなくなるのはまずい。なんか理由が必要だ。そんな事情がありました。
そこで彼が選んだのは……。


絶対無理な女の子に告白して振られてそれを理由に仕事を辞める!




もうめちゃくちゃです。笑ったね。まじで。
振られるところまでがシナリオなんですよ。


ところが、思惑通りには行かない物です。「赤西蠣太」が告白をした小江という女の子は、その直前に起こった事件のこともあり「赤西蠣太」のことを憎からず思っていた!さて、シナリオが狂いました。どうする蠣太!!
しかしそんな思いとは裏腹に関係者はみな陰謀に巻き込まれていくわけであります……。




とまぁ、こんな感じの話が文庫本でたった21ページに凝縮されています。端折ったところも含めて一大スペクタクルですね。日本史には興味も知識もない私が読んでも理屈抜きに面白かったです。


志賀直哉の小説はすごいなぁと思いますよ。わかりやすい。方向性は違うけれど現代のライトノベルに通じると思います。ライトノベルを書いている人の中から将来こういう方向を目指す人が出てきても全く違和感がないですね。


余談ですが、『砂の器』の前半の山場ってこれから着想を得た可能性もあるね。まぁ他にも元ネタはありそうな気がするし、他者の創作とは何の関係もなく松本清張が思い付いたのかもしれないんですけれどね。




もう一度繰り返します。
とにかく面白かった。読書感想文とかそういうことを抜きにお薦めですね!