読書感想文 川原 礫著『ソードアート・オンライン』1巻

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

面白かった。すっげー面白かった。




続きを買おうと思ってます。ということは、逆に言うとまだ1巻しか読んでないです。1巻だけで完結した感想文が書ける作品ですねぇ。


なお、俺の書く読書感想文のお約束として他作品引用は極力避けて通りたいのですが、2作品だけは名前を出しています。








仮想世界に取り込まれた人々が織りなす人間模様とバトルというのがおおまかなあらすじでしょうか。
仮想世界について扱った作品というと『クラインの壺』が真っ先に思い浮かびますが、あの作品のような怖さがあまりないです。それはなぜかと考えると、境界が明瞭であり、その境界をもう一度越えることが登場人物たちの目的になっているからですね。
もう一つ言えるのは、いわゆる、って俺しか言ってないのかもしれないけれど、「異世界放り込まれ型」の物語だって事です。ある特定の属性を持つ人たちが異世界に飛んでってしまうってのは『漂流教室』を思い浮かべます。しかし、それとは違って前にも書いたように元に戻る手段が明確なので悲壮感や恐怖感もあるけれど期待感や希望も残されています。だからこそより始末が悪い世界で有るとも言えるでしょう。


仮想空間を作りその中に異世界を構築するという物語の手法はすごくいいですね。異世界放り込まれ型物語が抱える構造的に逃れられない問題から解放されます。
一つは違いを乗り越えることの描写や説明が不用なこと。異世界に放り込まれた登場人物は、その異世界のなかでは常識的な文化、風俗、言語、果ては物理法則を知らないはず。しかし、多くの場合は最低でも言語の違いはいつのまにやら乗り越えて物語は進んでいきます。別に異世界じゃなくても異国でもいいんですよね。アニメでもドラマでも映画でもなんの準備もなくよその国に吹っ飛ばされたら言葉の壁にはぶつかるはずなのにあまりそう言う描写はないし、逆にそう言う描写が丁寧になされていたら、あくまでも俺の主観ですけれど冗長で醒めてしまう。
その問題は、ある特定の属性を持つ人々を一括して飛ばせば解決するのですが、そうするともう一つの問題が発生します。
それは、物語が始まる前の人間関係解説が必要になると言うこと。
特定の属性を持つ人々は一般的には交流がある人々である場合が多いです。もちろん、心細い異世界で築き上げられる関係は濃密でしょうけれど、そこに、そうなる前にどういう関係だったかっていう描写が無いと嘘くさく見えるし、それをやってしまうとこれまた主観ですけれどよけいな物と感じてしまう。


ソードアート・オンライン』で使われた手法は、そのいずれからも解放されているんですよねぇ。
オンラインゲームの中という制約があるから、販売した地域の人しかいないはずで、それは日本という国に限られているらしい。もし外国の人がいたとしても、それこそ自動翻訳システムでなんとかしちゃうっていう設定にもできる。
そして、オンラインゲームという特性があるから、誰一人知り合いがいない空間であっても違和感がない。もちろん、前々から知り合いだった人たちだっているでしょうけれど、少なくとも主人公にはそういう関係の人がいることは描かれていません。
だから、作中で人間関係が新たに構築されていくのが自然な流れに見えます。小説の読者は当然主人公と同様に他の登場人物とは交流がなかったわけですから感情移入しやすくなります。


この手法は異世界放り込まれ物のテンプレートになってもおかしくないんじゃないかと思いました。




メジャーな作品とはいえネタバレを書くのが気が引けるので本編に関する感想はこんな総論だけにしてみます。


さて、この先どうなるのかなぁと思いながら読んでみたわけですけれどねぇ。
いやね、完結しているのに余韻があるんですよね。この先の物語が想像できる。いくつか想像できる。だから続きが読みたいと思っちゃったわけです。今までの経験上、実際続編が描かれていた場合に、それが俺好みの方向に転がっているかは五分五分以下の確率ではあるんですけれど(笑)。


思ったのは……。
仮想空間で抱いた感情を現実空間でそのまま抱き続けることができるのかみたいな問題に登場人物がぶちあたる可能性はないのかなぁということです。ゲーム内で抱いた感情は、あくまでもシステムによるサポートがあって初めて生まれた物であって、自分自身が抱いているそれとは実は違うのではないか、という疑念に登場人物が至ったりすることはないのかなぁと。読んでる人はわかるかもしれないですが某小説の影響ですね。まんま(笑)。
このまま幸せにくらしましたとさ、というエンディングに直結してもいいし、さらなる冒険に旅立ってもいい、上に書いたような鬱展開になってもいい。いろいろとオプションがあって、しかも1巻では描かれていない人々を含めればかなり大勢のその後を描けるという構造になっていますからやろうと思えばそれら全て、さらにそれとは別の俺が思い付かないような展開だってできちゃうんじゃないかなぁと。




最後にもう一度だけ全体の感想を書きます。


異世界放り込まれ物」のテンプレートになりかねない面白い小説でした。